レジェンドから期待の新鋭まで、ミステリー界を牽引する超人気作家20名が「週刊文春」のために書き下ろしたショートショートを一冊に収めた『神々の挑戦状』(文春文庫)。
ミステリーファンならずとも必読の本書を、小説の紹介動画の第一人者・紙上健吾さんはどう読んだのか!?
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短いからこそ、書き手の力量がむき出しに
かつて、とある編集者が「小説で最も難しいのは短編だ」と言っていた。長編なら、物語の背景や登場人物の関係性を、時間をかけて描ける。もちろん、長編には長編の難しさがあるのだが、読者に物語を理解してもらうための説明を重ねる余地は大きい。しかし短編はそうはいかない。とりわけミステリーでは、限られた枚数で人物を立ち上げ、謎を生み、読者の予想を揺さぶり、読み終えた後に何かを残す必要がある。説明しすぎれば興を削ぎ、省きすぎれば伝わらない。短いからこそ、書き手の力量がむき出しになる。そんな言葉を思い出しながら読んだのが、『神々の挑戦状』である。
まず驚かされるのが、執筆陣の顔ぶれだ。ミステリーやホラーの最前線に立つ作家たちが集い、アイデアを注ぎ込んでいる。さらに、『ツミデミック』で直木賞を受賞した一穂ミチや、『三千円の使いかた』などで知られる原田ひ香といった、普段はミステリーを主戦場にしていない作家も名を連ねる。作家の名前を追うだけで、次の一編を開きたくなる。まさにタイトルに偽りなしの競演だ。20編は謎のあり方からしてさまざまで、犯人を追うものもあれば、日常の些細な出来事から不穏さが浮き上がるものもある。読者に求められる頭の使い方まで一編ごとに変わる。
今回は、印象深かった3編を紹介したい。
まずは澤村伊智「優しいお母さん」。幼い頃に母を亡くした男性が、成長してからも母の気配を感じ続けている。その話を友人が語る形で物語は進む。出発点だけ聞けば、悲しくも温かい怪談のようだ。ところが、何げない会話や語り手の視点に、小さな違和感が積み重なっていく。派手な恐怖描写に頼らず、誰かの思い出に耳を傾ける行為そのものを緊張感へと変えていく構成に、ホラーの最前線を走る著者の持ち味が光る。読み終えた後、思わず冒頭に戻りたくなる。
