「いたいた!」「かわいい……」

 北海道東部に位置する、浜中町の霧多布(きりたっぷ)岬。人々が視線を向けるのは、海原をたゆたう野生のラッコである。絶滅危惧種に指定され、日本の水族館でも珍しくなった生き物だが、なぜここで見ることができるのだろうか?

10月27日、霧多布岬に現れたラッコ ©深野未季/文藝春秋

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 はじまりは約10年前。3頭のラッコが、岬の沖に居ついたことだった。その後、2018年には、国内で初めて、野生ラッコの赤ちゃんの誕生が確認された。

「現在、8~10頭ほどのラッコが見られます。ここで生まれ育ったラッコはもう少しいるようなのですが、約8km圏内を自由に移動するうえ、根室や厚岸(あっけし)など道東の他のエリアにも行き来するので、定住しているのはそのくらいの数かなと」(浜中町商工観光課・藤原さん、以下同)

 

観光とラッコが共存する“奇跡の地”

 なぜ、ここなのか? 答えは、岬の背後に広がる湿原にある。約3168haもの広大な「霧多布湿原」の栄養分が川を通って海へ流れ込み、昆布の藻場を育てる。そこにウニやカニ、貝類が集まってくる。どれもラッコの好物だ。

「エサが豊富なことに加えて、海の水深は浅く、岬の内側の波は穏やか。ラッコにとって過ごしやすい環境です。大きな木が少ないため猛禽(もうきん)類の脅威が他の地域より少ないのも影響しているかもしれません。『船に乗らなくてもラッコを見られる場所』というのがポイントですね」

じつは「霧多布岬」はアイヌ語をもじった通称で、正式な地名は「湯沸(とうふつ)岬」という

 岬の標高は約50m。肉眼では小さな影しか見えないが、双眼鏡や望遠レンズをのぞくと、ラッコのかわいらしい表情までうかがえる。ラッコにストレスを与えない距離から人間が観察できる、なんとも奇跡的な場所である。