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文春野球コラム

ファンのみなさま、日本一おめでとうございます!――文春野球優勝監督独占手記

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/11/04
note

 長く険しい道のりでした――。2年目の文春野球、ついに悲願の日本一を奪取。1年間の苦労が報われた気分で、今、この「優勝監督手記」をしたためています。思えば、昨年の年明け早々、「野球コラムのペナントレースを始めるつもりだ」と知らせを受け、「ぜひヤクルトの監督に就任を」と依頼されたことが、すべての始まりでした。

 ちょうどその頃、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)と、『幸運な男 伊藤智仁悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)の出版を控えていた僕は、「自著の宣伝になるなら」という軽い気持ちで、この大役を引き受けることとなりました。

東京音頭に合わせて傘を振るヤクルトファン

文春野球2年目を迎えての葛藤

 しかし、いざペナントレースが始まってみると、それは想像以上に過酷な戦いでした。自分の原稿が「HIT数」という数字になって明確に評価され、同時に「勝者」と「敗者」として白日の下にさらされる日々。「ぜひとも優勝を!」と意気込んでいたものの、首位・巨人、プロ野球死亡遊戯さんにはまったく歯が立たずに、首位とは大差の2位でシーズンを終えることとなりました。さらに、本家・スワローズもまさかの「96敗」という記録的な屈辱のシーズンを送り、心身ともにつらい日々となりました。

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「負けたままでは終われない……」、そんな思いとともに2年目のシーズンを迎えます。「今年こそ!」の強い決意を持って2年目に臨もうとしたところ、「今季は複数の書き手によるチーム制で行う」とコミッショナー事務局からのお達しが……。基本的にフリーランスの物書きというのは、あくまでも「個人事業主」であり、「作品の賛否や功罪はすべて個人に帰する」という思いを持って日々の仕事に臨んできた僕にとって、「チーム制」というのは、ハッキリ言えば物足りないし、責任の所在が曖昧になる気がして、まったく乗り気ではありませんでした。

 しかし、一度「やる」と引き受けた以上、ここで辞退することもできません。僕はともに戦うメンバーの人選にとりかかりました。このとき、僕の頭の中には、「同業者であるライターは指名しない」という思いがありました。率直に申し上げるならば、「こんな楽しい仕事を他の書き手に奪われたくない」という、さもしい気持ちがそこにはありました。

 端的に言えば、このときの僕の胸の内にあったのは「自分よりも面白い原稿を書かれること」へのジェラシーでした。そこで、最初に考えたのがペンネームを使って、複数の人格でテイストの異なるコラムを、僕一人でかき分けるという方法でした。しかし、それはコミッショナーサイドに却下されてしまいます。そこで、次に考えたのが「書くこと」が本職ではない方をメンバーにして、僕が「聞き書き」をするという方法でした。この提案に関しては事務局からの許可が下ります。このとき、僕の頭に浮かんだのが、昨年までヤクルトの監督を務めていた真中満氏、そして同じくヤクルトの投手コーチだった伊藤智仁氏でした。

 すぐにお二人に打診してみると、「いいですよ、やりましょう!」とのご返事。真中さんも、伊藤さんも、そして僕も「1970年組(真中さんは71年早生まれだけど)」の「オッサントリオ」の完成です。この三人でペナントを戦えば、悲願の「打倒巨人」も夢ではありません。でも、僕にはもう一つの野望もあったのです……。

批判やバッシングにさらされながら……

 もう一つの野望――、それが人気声優・松嵜麗さんにメンバー入りをお願いすることでした。ヤクルト愛にあふれた彼女の発言を聞いたり、ブログを読んだりしていて、「ぜひ彼女にコラムを書いてほしい」と考えたのです。彼女ならば「同業者」ではないので、文章を書いていただくことにも抵抗はないし、「オッサントリオ」に花を添えていただきたいという思いもありました。そして、文春野球の発展を考えると、野球ファン以外の層へのアピールも必要だし、その点では「松嵜さんの起用は正義なのだ」との思いもありました。

 事務局に提案すると「レギュラーメンバーではなく代打でもいいのでは?」と言われました。しかし、そこは監督権限で押し切り、晴れて松嵜さんもメンバー入りすることとなりました。「代打」ではなく、「レギュラー」であることに意味があると考えたからです。こうして始まった2018年文春野球ペナントレース。ヤクルトは順調にHIT数を重ねていきました。真中さんのコラムは、僕との「Q&A形式」、伊藤さんの原稿は、「本人の一人語り形式」、そして、松嵜さんはご本人の執筆。自分でも「メンバー間でいいバランスが取れたのでは?」と自負しています。

 しかし、世間はそうは受け取りませんでした。「有名人の知名度に頼ったHIT数稼ぎだ」との批判が、すぐに僕の耳にも入ってきます。他球団の文春野球メンバーからの厳しい意見もありました。自分でも「反則メンバーだよな」と自覚してはいましたが、その声は意外と大きいもので、そのたびに心苦しい思いをしたものでした。

 しかし、乗り掛かった舟です。新しい鞄には新しい夢を詰め込んで、旅に出たのです。真中&伊藤&松嵜というメンバーで一年間を戦う覚悟を決めて、ペナントレースを進んでいくのです。こうして、メンバーそれぞれの協力の下、厳しくも、楽しい戦いが続いていったのでした。

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