「運命戦だな……」
観戦者の誰かがそうつぶやいた。「運命戦」とは、競技かるたの言葉である。最後の1枚をどちらが取るか、それで勝敗が決する、という状況を表す。
2018年8月25日。競技クイズの高校日本一を決する第1回「ニュース・博識甲子園」決勝戦。
東京の開成と埼玉の栄東。優勝候補同士がぶつかった最終決戦は、最後のスコアは14対14。先に15ポイント目を取った方が優勝という、作っても作れないような、奇跡的な場面を迎えていた。
張り詰めた空気の中、最後となるかもしれない問題が読み上げられる。
「インフレの種類で、『駆け足』という/」
両校の選手の手がほぼ同時に動き、ボタンを押す。ランプがついたのは、開成の選手だった――。
現在の高校クイズ事情
「ニュース・博識甲子園」は、毎年夏におこなわれ、9月に日本テレビで放映される「全国高等学校クイズ選手権」、通称「高校生クイズ」と混同されることがある。まずは「高校生クイズ」に関して、おさらいしておきたい。
言うまでもなく「高校生クイズ」は、多くの幅広い世代の視聴者に親しまれてきた、昭和の時代から続く老舗番組である。1983年の第1回以来、全国のクイズを愛する高校生たちにとって最大のイベントだった。そこでは何人もの若き知のスターが現れた。開成高校在籍時に優勝を果たした、伊沢拓司さんや水上颯さんがその代表であろう。
「高校生クイズ」といえば過去に3度優勝している開成、県立浦和(埼玉)、あるいは灘(兵庫)、ラ・サール(鹿児島)など、大学進学率の高い進学校が常連というイメージが強い。
「カップルの愛は突破できないな、と……」
一方で、2017年と2018年。その「高校生クイズ」を2年連続で制したのは、三重県の私立桜丘高校である。
2017年に優勝した、木多祐太君と中島彩(さやか)さんについては、文春オンラインに掲載された「奇跡の“高校生クイズ優勝カップル”が語る『エリート開成に勝てた理由』」に詳しい。
開成などの有名男子高と比較すれば、桜丘高校は共学の一般的な高校だ。そうした高校の男女カップルチームが優勝したことは、大きな話題となった。
「男子校の友情では、カップルの愛は突破できないな、と……」
早押しクイズで10問先取優勝という、伝統的なスタイルでおこなわれたニューヨークでの決勝戦。わずか1ポイントの僅差で敗れた開成のメンバーの一人、後藤弘君はそう言って苦笑した。
昨年度3年生だった木多君と中島さんは、今年2018年に高校を卒業した。