伝統的な競技クイズの強豪校同士の対決が実現した
決勝戦に勝ち上がってきたのは、以下の2校である。
栄東(埼玉) 安達虎太郎、森田晃平、佐藤彰真
開成(東京) 後藤弘、上野李王、藤松健太
地方予選で、栄東は1位。開成は2位。優勝候補の本命同士が、最後の決戦に臨むことになった。
栄東・森田君は2016年、開成・後藤君は17年に「高校生クイズ」の決勝にまで進んだ。今年2018年に方式が変わって、両校はともに、そちらの地方予選で敗退している。伝統的な競技クイズの強豪校同士の対決は、「ニュース・博識甲子園」で実現したと言っていいだろう。
決勝は3人の選手がそれぞれ5ポイント、全員で15ポイント取ったチームが優勝となる。一人傑出した選手が、全部答えるということはできない。相手が落とした問題を、自チームの誰が拾うかなど、団体戦ならではの微妙な駆け引きが生まれる。
栄東と開成は、ほぼ実力伯仲。観戦者、関係者が期待した以上の名勝負が繰り広げられた。
力が拮抗した対戦では、ちょっとしたミスによって、その後の展開が大きく左右されることもある。今回の決勝では、わずかに開成側にミスが目立った。たとえば、以下のようなシーンがあった。
Q.日本国憲法第25条第1/
開成の後藤君が早いタイミングでボタンを押す。自信を持って答えた「生存権」が、実は不正解。以前であれば、そのキーワードで正解となることが、ほとんどだったかもしれない。「ベタ問」と呼ばれる定番問題も、少しずつ進化していく。問題文は以下のように続く。
Q.日本国憲法第25条第1項の条文からタイトルを付けた、福祉事務所の職員・義経えみるを主人公とする柏木ハルコの漫画は何でしょう?
1年生ながら全国予選個人トップの栄東・佐藤君が落ち着いて拾う。正解はテレビドラマにもなった、『健康で文化的な最低限度の生活』だ。
解答権を得たことを示すランプがついたのは……
開成が一時は先行したが、最後は栄東が追いついた。そして14対14。最後に残った1人が先に正解した方が勝ちという、まさに「運命戦」の場面を迎えた。残った選手は、開成・上野君と、栄東・安達君。
Q.インフレの種類で、『駆け足』という/
両者がボタンを押し、解答権を得たことを示すランプがついたのは、開成・上野君だった。
「ギャロッピング・インフレ」
ストレートにそのままを答えた。大きな賭けだった。しかし無情にも、不正解。問題は以下のように続いていた。
Q.インフレの種類で、「駆け足」という意味があるものは「ギャロッピング・インフレ」ですが、「忍び足」という意味があるものは何でしょう?
解答権は栄東・安達君に移る。このクラスの選手ならば、ここまで読まれれば間違えない。
「クリーピング・インフレ」
少しの間を置いて、栄東の優勝を告げるチャイムが鳴った。喜びを爆発させる栄東チームのメンバーが、安達君に駆け寄った。
一方で開成・上野君は、チームメイトに「ごめん」という仕草で手を合わせ、ずっとうつむいたままだった。日頃どれだけ、最後の勝負の、その一瞬のために打ち込んできたか。悔しさは、察して余りある。
そうして第1回「ニュース・博識甲子園」の幕は、大成功のうちに降りた。日本クイズ協会はすでに、次回以降の準備に取り掛かっている。いずれこの大会が、「高校生クイズ」と並び称される、夏の一大イベントとなる日が来るのかもしれない。