弱冠27歳のホットな人物がいる。
それは天才監督アニーシュ・チャガンティだ。いま、ハリウッドの目利きたちが彼をサーチし始めている。ディズニーが、マーベルが、あるいはDCが次の“ユニバース”の担い手としてサーチしているはずだ。
本作『search/サーチ』で劇場映画デビューを果たしたこの監督は、それほどの才能の持ち主だ。
映画史上初の、まったく新しい視点
120年前に誕生した時から、映画は視点と時間軸の操作で成り立っている。現在作られているあらゆる映画は、この延長線上にあるといっても過言ではない。トーキーもカラーもVFXもCGも、この基本構造を変えたわけではない。たとえば異なった時間軸を編集によって操作する語りは、『市民ケーン』によって既に完成の域に達している。複数のカットを組み合わせるモンタージュの手法も、ヒッチコックの『サイコ』のあのシャワールームでの殺害シーンで頂点に達したと言えるだろう。
しかし、本作はその構造を揺るがすような発明をした。まだこの手があったか! と唸らされた。映画史上初の、まったく新しい視点を発明したのだ。それは、映画全編をPCの画面だけで構成するというものだ。
映画は、カメラの動き、寄りと引きといったカメラワークが切り取ったショットと、それらの組み合わせによる時間の流れの操作によって物語が語られる。しかし、この映画はそうではない。PCモニタの奥に点在する情報のコラージュで物語を紡ぐ。それは、コンピュータの機能や特性を活かし、そこに点在した断片を繋ぐ全く新しいストーリーテリングだ。それこそが、新しい視点、POV(Point Of View)ならぬPCV(PC View)とでも呼ぶべき発明だ。
ゲームの世界では、FPSの手法によって、プレイヤーと主人公を一体化させ、これまでにない体験を提供してきた。これはゲームにしかできないことだった。最近では、『ハードコア・ヘンリー』のように全編を一人称で語る意欲的な試みのPOV映画も現れたが、それはゲームの延長線上の表現であり、既存の映画の構造からはみ出るものではなかった。
一方でVRの技術が、映画につきものだった枠(フレーム)を取り払い、それと同時にゲームや映画の垣根も取り払い、これまでにないエンタテインメントやストーリーテリングを生み出すようになるまで待たなくては、映画には新しい語りの手法は生まれないかもしれないと思われていた。表現を革新するには、新しいテクノロジーが必要だと思われていた。
しかし本作はその予想を覆した。