1992年作品(92分)/東映/VHS

 連載開始当初、「DVDが発売されていること」が取り上げる作品の範囲についての編集部からの条件であった。

 ただ、それだけでは本数に限りがあるので、後になって「読者が観る機会があるのならOK」ということで、VHSでかつてソフト化されていたり、掲載のタイミングで衛星放送や名画座などで鑑賞可能ならば取り上げても構わないことになった。そして。連載が当初の目標でもあった三百回を超えたご褒美――というわけではないが、新たな規制緩和が行われることに。

 劇場公開作品でなくとも、VシネマやOVAなどのビデオ・オリジナル作品を取り上げることが可能になったのだ。これまでも『ミナミの帝王』シリーズを何度も取り上げるなど、Vシネのタイトルにも触れてきたが、一応それらは「劇場版」であった。これからは、もうその枠を気にせずにシリーズ中から好きな作品を選ぶことができる。

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 そこで今回は、初めてビデオ・オリジナルの作品を取り上げることにした。菅原文太主演『ビッグボス』である。

 実は本作、今回まで筆者は未見であった。中古ビデオ屋に行くといつもなぜだか大量に置いてあり、黒のソフト帽に葉巻をくわえた文太の強面が背表紙にアップで映るパッケージがズラッと並ぶ光景にそこはかとないB級感を感じて、なかなか手を出す気になれないでいたのだ。そこで、せっかくなのでこの機会に初めて観てみることにした。

 主人公は「ボス」と呼ばれる大泥棒(文太)。表では貿易商を営んでいるが、裏では部下を操りながら大きな盗みを決行している。本作はそのボスと「怪盗男爵」を名乗る謎の盗賊との宝石をめぐる争いが描かれる。といって、スリリングな攻防かというと、意外とそうでもなかったりする。

 ところどころに脱力系のギャグが唐突に挿入されるからだ。チャイナ服にナマズ髭を付けた変装をして、ひたすら麻雀用語だけのインチキ中国語を話すボス。部下も部下で、敵地に潜入する時になぜかフンドシ一丁になる部下(渡辺裕之)もいれば、ハイレグ水着の部下(細川ふみえ)もいれば、カップ麺を食べ始める部下(菅原加織)もいて、ふざけっ放し。さらに、ボスのオフィスの椅子がなぜかトイレやブランコになっていたり、室内をナマズの人形が飛んでいたり、盗みに入った先の金庫から鳩が飛びだしたりと、隙あらば笑いを狙ってくる。しかも、物語はそうしたギャグを全く無視して進んでいるのだ。全くもって奇妙だ。

 そんな感じでとにかくユルいのだが、不思議とそのユルさが段々とクセになる。こういう新しい出会いは大歓迎だ。