1984年作品(100分)/ポニーキャニオン/2000円(税抜)/レンタルあり

 ホラー……特にゾンビ映画によく見られるが、「ここなら安全圏だと思って逃げ込んだ先が実はそうではなかった」という展開がある。この安心から絶望に突き落とされる感覚を味わう度に厭な気持ちにさせられ、そこから一週間近くは心が暗くなる。

 最初にそんな気分にさせられたのが、今回取り上げる『ドラえもん のび太の魔界大冒険』だった。子供の頃に劇場で観た際の「ある場面」は、今でもトラウマになっている。

 物語は魔法の世界に憧れる少年・のび太が、「もしこうなったらいいな」という状況を実現してくれるドラえもんの道具「もしもボックス」を使って、魔法が日常に存在している世界を作り出すところから始まる。が、そこでものび太は劣等生。まともに魔法が使えないため教師には怒られ、同級生には笑われ、ようやく覚えたのがしずかちゃんのスカートをめくる魔法のみ。

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 その世界の地球が巨大な魔力を持った魔界の悪魔たちに侵略されようとしていることを知ったのび太は元の世界に戻ろうとするも、「もしもボックス」はママに捨てられていた。そのため、のび太やドラえもんたちは行きがかり上、魔界に乗り込んで大魔王と戦うことになってしまう。

 それだけなら、ただの冒険譚と思われるかもしれないが、本作はそう甘くはない。魔界に潜入した一行は、大魔王の前に敗北してしまうのだ。

 命からがら逃げ切れたのび太たちはタイムマシンを使い、のび太が「もしもボックス」を使う前の実世界へと戻る。たどり着いた先は、のび太の自室。これで一安心――と思いきや。ここから、問題のトラウマシーンが始まる。

 大魔王は刺客として魔物・メジューサを派遣、メジューサはドラえもんの使ったタイムマシンの空間を通って、のび太の部屋に侵入、襲いかかってくるのである。そして、のび太とドラえもんはメジューサの魔法で石にさせられる。

 恐ろしかった。いつものテレビシリーズであれば、のび太はどれだけジャイアンに酷い目に遭わされようとも自室に戻れば安心。そこはのび太とドラえもんしか存在を許されないはずの絶対の安全圏だった。本作を観ていた時もその意識だった。のび太たちと同じく「これでもう大丈夫」心からそう思った。そこに不気味な声と共に現れるのが、蛇まみれの幽体のような、どう見ても不気味な魔物。「そんな――」どこにも安全圏はない。初めて味わうその絶望感に、心底から震えた。しばらく、怖くて眠れなかった。

 気づけばその絶望感に病み付きに。それ以来、あえて厭な気分になるために映画を観るようになってしまった。