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なんでも食べちゃう2人が語る「ほんとうにスゴい辺境メシ」

なんでも食べちゃう2人が語る「ほんとうにスゴい辺境メシ」

辺境ノンフィクション作家・高野秀行×発酵デザイナー・小倉ヒラク

note

お茶を飲んで額に第3の目がバカッと開いた!

小倉 僕の場合は、お茶ですね。台湾のお茶屋で、身体や顔で健康状態を診断する「望診」を受ける機会に恵まれて、処方されたのが45年物のお茶でした。腐葉土みたいな茶葉を煮出した汁を飲むんです。一口飲んだ瞬間に「チャクラが開くって、こういうことか!」と思いました。額に第3の目がバカッと開く感覚があって、汗が噴き出し、2時間くらい動悸が止まらなかった。お茶を教えてくれた先生は「君が飲んだこのお茶は、茶の木が土に還る一瞬前の最後の命の輝きを有難くいただくものだ」と言っていました。高野さんが衝撃を受けたトリップフードは何ですか?

幻(ヴィジョン)が見えたコロンビアの「ヤヘイ」

高野 コロンビアの「ヤヘイ」はすごかった。アマゾンの蔓植物を煮込んだ汁を飲むと強烈なエクスタシーを感じて、幻(ヴィジョン)が見える。でも日本に持ち帰ってやってみたら、全然駄目。やっぱり環境が重要なんだね。あらゆる刺激が頭の中で渦巻いちゃうから、トイレがザーッと流れる音がすると、自分がトイレの中に入って一緒に流されるような幻覚に襲われました(笑)。

幻を見ている高野氏 ©高野秀行

小倉 LSDみたいですね。

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高野 現地には「ブルホ」という呪術師がいて、人の心を読んでコントロールしてくれるから、別世界にスーッと飛んでいける。

化粧をした呪術師がヤヘイを担ぐ ©高野秀行

小倉 グッド・トリップに導くグルみたいな人がいるんだ。リテラシー高えな。

高野 リテラシーって(笑)。人は眠りから目が覚めると、何時間寝ていたか感覚でわかるでしょう。ヤヘイの幻から覚めたときリアルに「千年」と感じたけど、実際はたった1時間だった。

小倉 高野さんは途方もない体験をしても現実世界にちゃんと戻って来ていますよね。どうしてですか?

高野 たぶん日本に帰るからかな。何かを体験しても、日本に戻ってきたら少しずつ失われていくでしょ?

 ヒラク君は何かを食べて命の危険を感じたことはある?

命の危険を感じたのは1度だけ

小倉 四川省の丸い唐辛子かな。青緑色の小さいナスのような見た目で「そのまま食べたら死ぬ」と言われて。怖いもの見たさで半分ほど食べたら、翌日は腹痛を超えて、内臓が痛くなりました。他にも悪食はしてるけど、命の危険を感じたのはこの唐辛子だけです。

高野 悪食といっても、現地で普通に食べられているものなら大事に至ることはないんだよね。

小倉 その通りです。外部の人間が悪食と思っても、現地では日常食だから大丈夫。こっちのマインドセットの問題で、それを変えれば何を食べても大概おいしい。『辺境メシ』にも、食べようかどうしようか逡巡する場面がありますが、そんなときは頭のスイッチを切り替えるんですか?

高野 珍食スイッチをオンにするとも言えるし、「気持ち悪い」という発想をオフにするとも言える。

小倉 究極は中国人も絶句した「胎盤餃子」ですよね。