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なんでも食べちゃう2人が語る「ほんとうにスゴい辺境メシ」

辺境ノンフィクション作家・高野秀行×発酵デザイナー・小倉ヒラク

日本は中華文化圏の辺境?

小倉 先日、和歌山県の湯浅町にある古い醤油の醸造所を訪ねました。そこは中国大陸から最初に味噌や醤油が伝わったといわれる地域で金山寺味噌の作り方を習いました。日本は辺境に行くほど中国大陸の影響を発見することが多く、「ここは日本だっけ」と不思議な気持ちになるんです。

高野 日本は中華文化圏の辺境だから、中国の少数民族との類似を感じるのは間違いじゃないよ。

小倉 日本人は中国の少数民族とも言えますからね。『辺境メシ』で特に興奮したのはネパールのカトマンズの水牛料理です。脊髄からリンパ液まで食べきってしまう。あの料理には、どうやって辿り着いたんですか。

水牛の脊髄からリンパ液まで食べきる

高野 ネパールを旅していたときに友人のミランさんが、「ネパールのネワール族は水牛が大好きで、生肉も食べます」と教えてくれたのがきっかけです。俄然興味がわいて、彼の案内で世界遺産「バクタプル」のど真ん中にある食堂に行ったんだ。

世界遺産の中の水牛料理店 ©高野秀行 

 ミランさんはネワール族の出身で、先祖代々続く司祭の家系。司祭を務めるバラモンのカーストはなぜか水牛を食べてはいけないそうで、ミランさんも水牛料理は食べない。食べない人が料理を案内してくれるというのも妙な話だよね(笑)。そもそも水牛はあくまで労働用の家畜で、固くてまずいから普通は食用にしないんだよ。しかも僕が訪れた食堂にあるのは、ほぼ正肉以外の部位。

水牛の脊髄(調理前) ©高野秀行

 しかもレバーとか腸といったふつうの内臓もない。脊髄の炒め物、リンパ液のプディングなど、みんなが食べないものを最後にまとめて調理しているみたいだった。

水牛異物料理をガイドしてくれたミランさん ©高野秀行

小倉 食材の最下流ですね。でも、美学がある。

高野 特に「水牛の髄液胃袋包み揚げ」には、食のボーダーを突き崩されたね。

小倉 メッチャ食いたいと思いました(笑)。かじると髄液を包む胃袋が破れて、髄液が口に流れ込む瞬間を1回体験してみたい。

高野 髄液のうまみが濃過ぎて「こんなもの食べていいのか?」と思ったよ。

水牛の髄液の胃袋包み揚げは精力絶倫の効果も ©高野秀行 

「髄はヤバい」

小倉 僕も先日、似たような体験をしました。イタリアのミラノのトリッパ屋さんに行ったら、牛の脚の骨を勧められて。骨の中にある髄をチュルチュル吸い出すんです。蟹味噌に似ているけど暴力的な味で、髄はヤバいと思いました。

高野 髄っていうだけあって、神髄なんだよ(笑)。ソマリ人の髄の食べ方はもっと洗練されていて優雅です。骨を縦に持って、もう一方の手で手首を叩くとピューッと髄が落ちてくる。

小倉 僕も髄グルメに関してはもう少し奥へ行きたいです。脳は食べ慣れると白子みたいで、さほどインパクトはないですよね。個人的にはイノシシの脳が1番うまかった。でも僕は今、脳より髄に興味があります。