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「人ってこういう瞬間があるんだな」

――ドラマの中で点描されるより子の人生を、石橋さんはどんな風に想像し、繋いでいったんですか?

石橋 「人ってこういう瞬間があるんだな」と思うことがベースにあった気がします。きつい妻、別離を言い渡す妻になってしまうには彼女なりの理由があるはずですよね。より子さんは大企業である菱松電機の受付として律と出会うわけですが、別に出世しそうな男性に目をつけて結婚に持ち込むような“策士”とも思えない。たぶん普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子どもが生まれて、普通に子育てをした人だと思うんです。何をもって「普通」と言えるのかは難しいことですけど、少なくともより子という人は真面目な人だと思う。

 

 だからこそ、生き方が誠実で、誠実だからこそ物の言い方や態度にごまかしがない。何かとストレートな生き方になってしまうというか。そういう日々の感情が、ドラマでは描かれない時間の中で積み重なっていって、やがて言葉や態度として現れてしまう……。そんなことを考えたりはしていました。ですから、より子さんを演じるのは難しかったですね。まだ私が人生で経験したことのない気持ちを考えることがたくさんあって。

 

家族のなかの「よそよそしさ」を演じながら

――より子さんの初登場は律との結婚を知らせるハガキの写真だったと思いますが、正式な初登場は鈴愛が律の新居の前まで来てしまうシーン。ベランダで物干しをしているより子と鈴愛の目線が合う場面でしたよね。

石橋 より子さんの人生を想像すると、彼女の最初の結婚生活にとって一番幸せな時期って、このころだったんじゃないかなって。だから、自然と柔らかい表情で鈴愛ちゃんと目を合わせることができたと思っています。

 

――一方で律の家族に溶け込めない「よそよそしさ」をより子さんは抱えていました。たとえば律の母・和子(原田知世)の葬儀で見せた姿は言葉だけでなく、石橋さんが演じる佇まいそのものに疎外感を見る思いがしたんですが……。

石橋 あの時は、より子さんというより私自身がよそよそしさを感じていたんです。というのも、律役の佐藤健さんをはじめみなさんは現場で何度も顔を合わせていて、まさに家族のような雰囲気。でも私はほとんど現場をご一緒したことがなかったので、本当に「入っていけない」っていう辛さがあったんです(笑)。でもそのときに、家族に溶け込めない寂しさや劣等感を、より子さんはいつも感じていたんじゃないかなって感じました。だからやっぱり、単なる悪役とは思えないんですよね。