1ページ目から読む
2/2ページ目
現代的な受け身の生き方に対する苦言
犯人がわかっている捜査なら、近道で正解へたどり着けてしまうが、それゆえに見落としてしまう人の機微がある――実に的を射た指摘であるとともに、様々なことに重ね合わせられる言葉だ。
人と違うことを恐れて、空気を読みすぎる社会では自分自身で考える力がだんだんと衰えていく。こうした現代的な受け身の生き方に対する苦言とも取れた。
そういう意味で言うと本書の復讐劇は受け身の生き方の対極にある。罪に問われるとわかっていても自ら鉄槌を下したい。なぜ佐織が殺されたのか、どんな理由であっても知りたい。これらの目的を果たした後、取った行動は「沈黙」だった。
「黙秘」と「沈黙」。本書で前者に続く言葉は「する」が、後者は「守る」がふさわしい。自分以外の誰かを守るための沈黙――湯川も例外ではなく大切な誰かのために行動していた。見事な幕引きにうなる一冊。
ひがしのけいご/1958年大阪府生まれ。大阪府立大学工学部卒。エンジニアとして働きながら、85年、『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。99年、『秘密』で日本推理作家協会賞受賞。2006年、ガリレオシリーズ初の長編『容疑者xの献身』で直木賞受賞。
なかえゆり/1973年生まれ。女優、文筆家。著書に『わたしの本棚』、『ホンのひととき 終わらない読書』など。読書家としても著名。