〈羽生世代にあって若手棋士に足りないものは“精神論”です〉から続く
現代将棋の進化を語る上では、AI(人工知能)は避けて通れない。すでに将棋ソフトはトッププロよりも強くなり、ソフトを研究に活用する若手棋士が次々とタイトルを手にしている。かつて「羽生世代」による革命を間近で見てきた島朗九段は、将棋界の未来をどう見ているのだろうか。
ウィキペディアにはいろいろ書いてありますが(笑)
―― 島さんといえば「元祖コンピューター研究」のような存在ですが……。
島 それは虚像そのもので(笑)。私は完全なアナログ人間なんですよ。当時、コンピューターを使用していたといっても、棋譜を入力していたに過ぎないです。私自身は、機械は苦手なほうで、いまに到ってもSNSとも無縁です。
ウィキペディアにはいろいろ書いてあって(笑)、どうやら「アルマーニのスーツを着てタイトル戦に臨んだ」というイメージもあるようですが、アルマーニのスーツは1着しか持っていません。単に当時はまだ着付けができなかったので、和服着用はハンディかなと考えていた程度です。
―― ストーリーが勝手に独り歩きしていると。
島 そうですね。自分を理解してくれる方々がいれば、すべては些細な話に過ぎません。ただ、およそコンピューター将棋といったフレーズは、その時のイメージに過ぎなくて……。第1期竜王戦は米長先生が相手でしたので、いわば「人間的な棋士」の代名詞のような大先輩です。ある程度自分のペースを貫かないと勝負にならないとは考えていました。私自身は和服のことは当時から好ましく思っていて、ましてや畳文化では靴を脱ぐわけですから、和服のほうが対局には合うに決まっています。
自分には以前、先崎学さんが書いてくれた一節が一番印象に残っていて。それは将棋のことではもちろんないですが(笑)。観戦記の中で「島九段は保守本流の棋士である」と評されたことがあって、実はそれが最高の褒め言葉でした。確か中村太地さんのことを書かれていたと思います。その時に、羽生さん、私、中村さんの名前が挙がって、実績は全然違うのに、その部分で同列に扱ってもらい恐縮でした。