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初代竜王・島朗九段が考える「コンピューター将棋」と世代交代

初代竜王・島朗九段が考える「コンピューター将棋」と世代交代

島朗九段インタビュー #2

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10年先も羽生さんは変わらない

――羽生さんは48歳です。一般論としては、年齢とともに体力も含めていろいろな衰えが出てくる時期だと思います。今後、さらに年を重ねていくと、羽生さんの将棋はどう変わっていくのでしょうか。

 60歳ぐらいまでは変わらないのかなという気がしています。衰えが見られるなら、40歳前後で棋力が落ちていると思います。好奇心も旺盛ですし、若い世代がいろんな指し方をしてきても、それを吸収して自分のものにできる対応力と理解力は抜群です。「羽生さんたちの世代を抜ききった」と言える存在が誰一人いない以上、10年先もそうなんじゃないかなと自分は思っています。そのほうが面白いとも思いますよね。

 

―― ファンとしては面白いですね。

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 むしろ追いかけていく側が大変だと思います。羽生さんの衰えというよりも、追いかけるほうも競争が激しくて疲弊していきますから。

 変な言い方ですけど、若手が強いのはいつの時代でも当たり前なんです。でも、羽生さんたちの世代も長持ちしていますけど、若い方もけっこう高齢化しているというか……。年少側にも、思うほど時間は残されていません。

 そして、つい「若手」と総称しがちですけど、それこそ若手タイトル保持者と藤井さんでは1世代違います。年配の人間から見ると「若者が」と言ってしまいがちだけど、実際は20代後半が10代の考え方を理解するというのは、年長者が思うよりも大変なことかもしれません。

―― 藤井さんの活躍は、将棋界のニュースにとどまらず社会現象になりました。

 想像を絶する実力と、驚異的な活躍です。羽生さん世代が現役のうちに藤井さんが出てきて、こういった戦いを見られるのは幸せなことだと思います。正直未知数で、将来的な予測が自分にはできないですね、どこまで藤井さんが伸びるのか。

第11回朝日杯将棋オープン戦準決勝で羽生竜王と公式戦初対戦した藤井聡太五段(当時) ©文藝春秋

読みきろうという気持ちが前面に現れている

―― 羽生さんも若いころは逆転勝ちが多かったとのことでしたが、藤井さんも中終盤で逆転することが多い印象です。

 逆転勝ちが印象に強いこともありますが、実際は王道の勝ち方が多いと感じます。勝ち方が魅力なのは、とにかく読みきろうという気持ちが前面に現れているのが特徴ですよね。それは時間がなくなることより、彼の中では重要なのでしょう。師匠の杉本さんの存在も安心感として大きいですね。

 明日を見据えた勝ち方というか、そんな感じを受けます。長く勝てるフォームを会得するかのような、見る側にワクワク感を与えてくれる将棋だと思います。

―― 藤井聡太四段が誕生したことで「将棋ブーム」となり、新しいファンも増えました。

 棋士のやるべきことは今も昔も基本的には変わらないです。ただ、どの世界もAIに人が追い詰められる空気のなかで、分からないことを考え続ける姿勢、そういったトップ・若手棋士の魅力が徐々に伝わってくれているというか。それと、人間的な魅力ですよね。

 羽生さんたちは、勝って傲ることも微塵もなく、ただ現局面と真摯に立ち向かい、勝っても負けても次の日は同じように精進を続ける。盤外でも立ち居振る舞いが端正で、そんなところが、以前からのファンも、そして新しいファン層の方も引きつけている気がします。本当にさまざまな部分で、藤井さん・羽生さんたちの相乗作用でいい影響が出ています。棋士の一員として、本当にありがたいことだと感謝の念しかありません。

 

写真=山元茂樹/文藝春秋

純粋なるもの: 羽生世代の青春

島朗(著)

河出書房新社
2018年9月21日 発売

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