「人形メディア学」。この言葉を聞いたことがあるあなたは、変な人かもしれない。
わたしは人形文化の研究者として、元々専門としてきた舞台人形劇のほか、着ぐるみやリカちゃん人形、ぬいぐるみ、ラブドール、『トイ・ストーリー』、『クレヨンしんちゃん』の殴られウサギや『それいけ!アンパンマン』などを扱ってきた。
2014年度から16年度にかけて早稲田大学で担当した講義「人形とホラー」は、ありがたいことに早稲田の学生アンケートで「面白い」授業1位となり、そこから入門的な内容の回を選び『人形メディア学講義』(河出書房新社)という書籍にまとめ今年9月に刊行した。
いつの間にか人形学者になっていた
そもそもなぜ人形の研究などするのか。自己紹介代わりに書いておこう。
一言でいうと、それは人形が、われわれ人間の歴史や文化、社会状況までをも雄弁に物語るメディアだからだ。
たとえば、1959年の発売以来、世界中でロングセラーとなっているバービー人形はスタイル抜群の白人金髪女性であった。だが近年、黒人やアジア人、ぽっちゃり体型のバービーが発売され話題を呼んだ。これは紛れもなく、多様性を重んじようとする今日の社会理念を反映した結果に他ならない。
かつてはあまり種類のなかったマネキンも、バービーとほぼ同じ理由で多様な体型のものが少しずつ流通するようになった。旧石器時代に作られた土偶からは子孫繁栄や五穀豊穣の祈りの痕跡がうかがえるし、ロボットの造形にも時代や地域によって流行り廃りがあるといわれている。
つまり、人形というメディアは時に言語や図版などよりも、われわれ人間を物語る。そこでこれまで学術的に論じられることの少なかった、大衆的で俗っぽい人形も扱い人間について考える営みを「人形メディア学」と名付け、研究を進め講義化した。
夢中であれこれ調べ始めて幾星霜。いつの間にかわたしは人形研究者と名乗るようになり、上述した講義のアンケートで「クレイジー」、「(受講者含めて)変態」などと言われる始末である。
さて簡単な自己紹介は以上として、今回はふなっしーについて考えてみたい。