醤油の船便は鉄道便に切り替わった
そして、紀州人はもうひとつの技術を持ち込んだ。それが醤油だ。鎌倉時代の僧侶が中国で味噌造りを習ってきて、それを紀州の民に伝授しようとしたら失敗し、偶然できた液体がたまり醤油の原形。ここから醤油ができあがった。その醤油製法を銚子に持ち込み、醤油を作り始めた人物がヤマサ醤油の創業者、濱口儀兵衛だ。
銚子は紀州と気候が似ており、背後には大豆に適した耕地があり、大消費地の江戸へは川の水運が使えた。こうして銚子の醤油産業は急成長する。明治後期に総武鉄道が銚子に到達し、のちに国有化されると、醤油の船便は鉄道便に切り替わった。
「しょうゆ味わい体験館」の中で、そんなヤマサ醤油の歴史や醤油造りの道具を見学できる。醤油を舌で学んでほしいと、さまざまなブランドの醤油の味見もできる。
スーパーマーケットで見かける醤油は数社で3種類ずつくらいだけど、ヤマサはずいぶんたくさんの醤油を作っている。ふだんの食卓にある醤油のほかに、値段が桁違いの高級醤油もある。味見してみると、たしかに違う。どれも醤油の良い香りがするけれど、高級品になるほど塩気が丸くなり、旨みが増していく。
まるで高級リキュールのようなオシャレなビン
とくに最高級のソヤノワールには感動する。これらの醤油をつけ放題のせんべい焼体験も楽しいし、ソヤノワールを使った焼きそばも販売している。キャベツもたくさん入っていて、春なら銚子名物の春キャベツを使っているそうだ。塩味に飽きたらソフトクリームもある。このソフトクリームも醤油入り。ちょっと想像しがたいけれど、舐めてみればみたらし団子のようなうまさ。納得だ。
焼きそば販売所の向かいがお土産屋さん。ヤマサ醤油のほぼすべてのブランドがそろうほか、醤油を使った珍味やお菓子も盛りだくさん。最高級の醤油ソヤノワールは、まるで高級リキュールのようなオシャレなビンに入っていた。115mlで648円。筆者がふだん使っている醤油が1リットルで300円くらいだから、18倍くらいする。でも、お土産だと思うと手頃かな、なんて思ってしまった。観光客の財布は緩いのだ。
お店の人のオススメは、肉を焼いて、調味料なしで、ソヤノワールだけを垂らして食べてほしいとのこと。その通りにやってみたら、本当においしい。焼き肉のタレよりも香りが立ち、肉の旨みを引き出してくれた。使い切ってしまったから、もういちど買いに行きたい。通信販売もあると思うけれど、こんどは春に。春キャベツの焼きそばを食べたい。工場見学も予約して、銚子電鉄に乗って……。
写真=杉山秀樹/文藝春秋
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