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「間違いなく世界一のスピードでしょう」

 斎藤はその翌2012年も解答選手権で優勝し、見事に連覇を果たした。

 一方の藤井は小学6年で出場した2015年の解答選手権で小学生として史上初の優勝。その後、2017年大会まで早くも三連覇を達成した(2018年も優勝し、四連覇を達成)。斎藤は藤井の解答能力に舌を巻く。 

「最近では、誰が追いつけるのだろうというレベルにまで行ってしまいました。今は多分、僕の3倍ぐらいのスピードで解いています。僕が2問目を解き終わったときに、彼は6問目を解いている、そんな速さです。僕も優勝した経験はあるので、彼の実力は桁違いと思っていただいて良いと思います。間違いなく日本一、世界一のスピードでしょう。しばらくは抜ける人がいるのかな、というレベルです」

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今年6月に行われた七段昇段パーティー ©文藝春秋

 そんな藤井の詰将棋における「世界一のスピード」と指し将棋の実力の相関関係は、すでに様々なメディアで指摘されている。特に終盤の「詰むや詰まざるや」の場面で詰将棋の能力がいかされていると言われる。

 ただし斎藤は「単純にそれだけではない」とみている。

「詰将棋は終盤の力と関連させて言われがちです。ただ、彼の場合は、序盤、中盤の大事なところを読むスピードと正確性こそ、詰将棋の力から来ている印象を受けます。これまでの対局で彼は持ち時間をうまく分配できている。それは自分でも気づかないうちに身につけた、読むスピードの速さがあるから。詰将棋の難問を解いてきて、気づかないうちに持て余しているくらいの能力の高さが身に付いたんじゃないかなと思います」

9歳らしからぬ手を指す子ども

 藤井が詰将棋解答選手権に初めて出た2011年、永瀬拓矢も少年の存在を初めて知ることになる。藤井は小学3年、日曜日に行われる東海研修会で将棋の腕を磨いていた。永瀬と親交の深い鈴木大介九段が名古屋に指導に行ったのだという。

将棋ファンから『軍曹』と呼ばれる永瀬拓矢七段 ©文藝春秋

「鈴木先生が東海研修会で指導されて、小さい子どもと指したというんです。その子が正座すると小っちゃくて、盤を前にすると、顔がちょっと出てきて指すのでとてもかわいいと言っていました。手合い(ハンデ)は飛車落ちだったそうですが、9歳とは思えないような手を指されて鈴木先生が負かされて、『あの子は絶対に強くなる』とおっしゃっていましたね」

 その少年こそ藤井であった。そしてここでもやはり、詰将棋に関するエピソードが出てくる。永瀬が続ける。

「鈴木先生はその子に詰将棋を出題されたそうです。それで鈴木先生もお返しに詰将棋の問題を出したら、その子にうまいと褒めてもらったそうです(笑)。『子どもらしからぬ』と言われていましたね」