最初は特に将棋には興味を示さなかった母親が……
将棋は勝負師の物語、と思われがちですが、その戦いを見守る立場の視点から描かれた将棋マンガもあります。『ひらけ駒!』(著:南Q太 発行:講談社)は、将棋に興味を持った息子を見守る母親視点で描かれた、今までにない風景の将棋マンガ。
息子の観察日記的な非常にゆっくりとした日常マンガではありますが、注目点は息子ではなく母親。最初は特に将棋には興味を示さず、息子の将棋教室、大会などに付き添っていきますが、いつのまにか母親自身が将棋に関心を持ち始めていきます。
イケメン棋士、美人女流棋士にときめいたり、竜王戦の優勝賞金の額を聞いて息子のプロ棋士姿を妄想したり、そんなリアルな母親視点描写がたまりません! ついには、母親自身も将棋を始めて、将棋ママ友と共に大会に参加までしちゃいます。母親世代に是非とも読んでもらいたい1冊です。
プロへの道が奨励会以外にも開けた
将棋マンガの王道と言えば、プロ棋士を目指す養成機関、奨励会を描いた物語です。しかし、2006年にアマチュアからのプロ編入制度が整備され、奨励会ルート以外からもプロ棋士への道が開けました。次の2作は、そんな中で誕生した新しいタイプの将棋マンガでしょう。
『リボーンの棋士』(著:鍋倉夫 発行:小学館)は、元奨励会員だった主人公が、再起を賭けてプロ棋士を目指すストーリー。注目ポイントはなんといっても監修の鈴木肇さん。鈴木肇さんといえば、つい最近アマ名人に輝いた元奨励会員の強豪。それだけに、登場人物の心理描写がとにかく緻密で、リアリティーがあります。そしてなにより、主人公と鈴木肇さんが重なって読めてしまうので、もう応援するしかない(泣)。ぐいぐい引き込まれていく正統派将棋マンガです。
同じプロ棋士を目指すストーリーでも、対照的なのが『将棋指す獣』(原作:左藤真通 作画:市丸いろは 発行:新潮社)。
元奨励会員の女性主人公がアマの大会などで活躍してプロ棋士を目指す、という流れは同じですが、主人公が背負っているものが違う。普段はかなり間の抜けた天然キャラの主人公が、盤を挟むと急に豹変し、命がけで狩りをするような獣と化して強豪たちを次々と蹴散らしていくんです。そこには、執念を越えた怨念のような気迫さえ感じられます。さらには、彼女が奨励会を退会した理由が“援交”だったという噂が……。
これは、謎が謎を呼ぶ将棋ミステリーの様相も孕んでいるぞ! そして何より登場キャラがずば抜けて個性的。筆者は個人的に、将棋マンガ初のメガネっ娘女性プロ棋士の誕生を切望しています(笑)。