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2019年、安倍政権は生き残れるか?――池上彰と佐藤優が語る2019年の論点 #1

2019年の論点100

2018/12/10
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橋下徹氏の「政権奪取論」が面白い理由

池上 さらに国民民主党もぱっとしない今なら、自民党は勝てるという計算ですね。

佐藤 むしろ早く手を打たないと、意外なところから弾が飛んでくるかもしれないのです。

 橋下徹前大阪市長が、『政権奪取論』(朝日新書)という本を出しましたが、これがきわめて面白い。この本のポイントは、小選挙区制の中に比例代表があるのはおかしい、完全小選挙区制にしろというところですが、これは公明党に匕首を突きつけているのです。比例代表があるから自民党は公明党に操られてしまう。今の安倍政権なら公明党に遠慮するのはやめて、完全小選挙区制にすることだってできるはずだ。そうなれば、公明党は自民党に吸収されるか、野党と連合するかしかなくなる。そういうことが書いてあるのです。これは公明党への宣戦布告ですよ。

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 しかし、放っておくと、野党の再編という文脈の中で橋下氏の主張が力を持ってくる可能性がある。この本の中で評価されている政治家は、小沢一郎氏、前原誠司氏、野田佳彦氏らですが、このあたりが一体となって野党再編が行われたら、再び政権交代の可能性も出てきます。ですから、是が非でも今の選挙制度でダブル選挙をやらなくてはならないわけです。

北方領土返還「イチゴ」に隠された思惑

池上 しかし、ダブル選挙をやるにはそれなりの大義名分が必要です。消費税をどうするかなど、国民の信を問う必要があるという理由がなければ、党利党略の誹りを受けます。

佐藤 その大義名分が、日ロ交渉――つまり北方領土の返還なんです。

 9月10日の日ロ首脳会談で安倍総理とプーチン大統領が合意した内容の中に「北方四島における共同経済活動」があります。そこに、「温室野菜栽培:いちごの品種及び実施場所を特定」というのがありましたね。これがきわめて重要です。というのも、イチゴの苗というのは日本国外に無断で持ち出してはいけないことになっているからです。もし、持ち出すなら特殊規則を作らなくてはならない。

©iStock.com

池上 平昌オリンピックで大人気だった女子カーリングの選手たちが、試合中、「もぐもぐタイム」で食べていたイチゴ。選手たちは現地で買ったから当然、韓国の品種のイチゴだと思って、「韓国のイチゴもおいしい」などとツイートしていましたが、あれは日本の品種なんですよね。違法に持ち出された日本のイチゴの苗を栽培したものだったとわかって話題になりました。

佐藤 公に苗を持ち出すのであれば、北方領土、実際は国後島になると思いますが、そこを日本国内扱いにする特殊規則が必要になる。あるいは、北方領土に限定した特殊な協定をロシアと結ばなくてはならない。これは日本にとって、ロシアの管轄の中へ穴をあけて入っていくことですから、プラスであるのは間違いない。北方領土の中で、日本の規則というものが適用されるのです。