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2019年、安倍政権は生き残れるか?――池上彰と佐藤優が語る2019年の論点 #1

2019年の論点100

2018/12/10
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安倍政権にとっては好条件

池上 自動車の右側通行、左側通行の問題も出てきますね。国際条約で、一国の中で右側通行と左側通行の両方があってはならず、必ずどちらかに統一しなくてはならないことになっています。沖縄返還のときも、猶予期間はありましたが、右側通行から左側通行へと変更されました。

佐藤 そういうことで時間がかかっている間に、先ほどのイチゴと同じ方法で、択捉島、国後島にいくつも穴をあけて、日本が入っていくわけです。これにロシアは合意するはずです。というのは、今、色丹島にはロシア極東の巨大企業ギドロストロイ社の水産加工場があって、ここで色丹島のほとんどの人が働いています。ロシアは、色丹島の引き渡し後も、日本から土地を借りて、ロシアの規則のままで操業を続けたい。そのため、最初は日本の申し出にどんどん合意することでしょう。

 すると、当面は歯舞群島、色丹島の引き渡しに加え、択捉島や国後島に農場、養殖場などを作って日本の規則を適用できるという、2プラスアルファの日本にとって好条件の交渉に見えます。しかし、時間がたって実際に2島が引き渡されると、マイナスベータがついてくることに気がつく(笑)。ただし、2つの間には時差があるので、安倍政権のときは2プラスアルファしか見えないわけです。

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池上 安倍政権とプーチン政権の利害が一致しているわけですね。

©JMPA

トランプはプーチンが喜ぶなら何でもOK

佐藤 平和条約締結は双方に大いにメリットがあります。まず、これによって両国はお互いの領土を相互承認する。日本はロシアが軍事力で不法占拠しているクリミアを承認せざるを得なくなりますが、一方で、ロシアは尖閣諸島を日本の領土であると承認することになります。

 さらに、北朝鮮問題において日ロが共同歩調をとることができるのも大きい。今、北朝鮮問題は、米朝中韓の4カ国でやっていて、利害関係者である日ロは排除されています。しかし、日ロが共同歩調をとれば、たとえばモスクワや東京で6者首脳会談をやるといったイニシアチブを強力に発揮することができる。プーチン大統領がそう言い出したら、習近平総書記も金正恩委員長も簡単には無視できません。

 もとはといえば、安倍総理がプーチン大統領に、歯舞群島と色丹島が引き渡されても、そこに米軍は展開させないという言質を与えているはずなんです。それがキーになって、全体が動いてきたのだと思います。

©JMPA

池上 アメリカにとって安全保障上のたいへんな問題のはずなんですが、トランプ大統領はそんなことに関心がありませんからね。むしろ、プーチン大統領が喜ぶことなら何でもOKだくらいの気持ちでしょう。そう考えると、アメリカ大統領がトランプだからできるとも言えますね。まともな大統領なら必ず、「ちょっと待てよ」という話になりますから。

佐藤 プーチン大統領はさらに大きなことも狙っています。それは北氷洋の航路帯の確保です。地球温暖化で北氷洋の氷が溶けて船が通れるようになってきました。そこをロシアの航路として活用するには、津軽海峡や宗谷海峡を通れるようにしておかなくてはならない。サハリンとロシア本土の間の間宮海峡は冬季は凍結します。また水深が浅くて大型船が通れない。北方のシーレーンを確保するためには、津軽、宗谷の両海峡が封鎖されないよう、日本との関係をよくしておかなくてはならないのです。だからこそ今回の話は動く可能性が高い。