公務員と社長! オーストラリアの野球環境ゆえの二足のわらじ
今回の2人のキャンプ参加は、ベイスターズと、彼らが所属する現地プロリーグ、ABLのキャンベラ・キャバルリーの業務提携の一環による人事交流として実現した。この冬、今永ら4人がABLの公式戦に参加したが、今回は、沖縄キャンプにオーストラリアでのシーズンを終えた彼らが参加の運びとなったのだ。ABLの運営母体、オーストラリア野球連盟(ABF)は、国内における野球の存在感を高めようと、国際大会での成績アップを目論んでいるが、この人事交流もその方策のひとつなのだろう。
オーストラリアでは野球はマイナースポーツとあって、ABLの規模もまだまだ小さい。シーズンは4か月と短く、南半球の野球シーズンが終わると、優秀な選手はアメリカやアジアに「出稼ぎ」に行くが、メジャーリーグや日本、韓国などのトップリーグでプレーするごく一部の選手はともかく、マイナーリーガーの多くは、25歳くらいをめどに見切りをつけ、帰国し、ABLでのみプレーすることを選ぶ。給与水準の高いオーストラリアでは、セカンドキャリアを考えた場合、その方が賢明なのだ。だからABLはプロリーグとは言っても、オーストラリア人選手のほとんどは他に職をもっている。2人も同様で、ケントはなんと現在、正規職員として政府機関で働いている。つまりは公務員だ。
「だからシーズン中は大変だよ。ABLの公式戦は週末の4連戦なんだけど、ボスの顔色をうかがいながら有休をとっているんだ(笑)」
今回のキャンプ参加も大変だったろうが、「働き方改革」の一向に進まない日本では考えられないことだ。
一方の、チェンバースはなんと会社経営と並行して野球を続けている。ゴールドコーストに自宅のある彼は、シーズン中はスマホ片手に社員に指示を送り、毎週のようにキャンベラとの間を往復しているという。彼はまたゴールドコーストにいるときは、「ローカル」と呼ばれるアマチュアクラブチームでもプレーする。オーストラリアでは、プロアマ間の垣根はないにひとしく、ケントもまた、キャンベラのクラブチームで週末の登板に合わせて調整している。
クラブチームのシーズンはABLより少し長く半年弱だ。つまり4月以降、国外でプロ契約している選手以外は、完全にオフになる。この間のトレーニングは大変だと彼らは口をそろえる。
プレミア12、そして東京2020へ
彼らが見据えているのは、この秋のプレミア12だ。東京五輪の予選も兼ねたこの大会はオーストラリア球界も重要視している。日本を除くアジア・オセアニア各国の最上位のチームが五輪切符をつかむことになっている。韓国、台湾の強豪を上回る成績を挙げればオーストラリアは、銀メダルを獲ったアテネ五輪以来のオリンピックの舞台に立つことになる。オーストラリアは、ソウルでの第1ラウンドをホスト国・韓国、キューバ、ベネズエラと戦う。ここで2位内に入れば、日本での第2ラウンドに進む。この秋、日本に来ることができるのか、という少々意地悪な質問にも、彼らは胸を張って口をそろえた。
「その可能性は十分にあるね。そのためにもここでしっかり学ばないと」
プレミア12の行われる11月と言えば、ABLの開幕直後だ。ある意味コンディションは万全と言える。ナショナルチームは通常、4日ほどの合同練習しかしないそうだが、チームオーストラリアには、お互いジュニア世代からの顔なじみというマイナースポーツならではの結束の強さがある。五輪とオーストラリアと言えば、日本が初めてオールプロで臨んだアテネ五輪の準決勝で、この「ドリームチーム」の夢を打ち砕いたのがこの国だった。国際大会こそ、彼らの本領である「大物食い」ぶりを発揮する場なのだ。
投内連携の守備練習の後、いの一番にブルペン入りした2人は、シーズン終了後ひと月経ったとは思えないキレのいいボールを投げ込んでいた。
「ナイスボール!」
ブルペンキャッチャーの威勢のいい声が、この時期の沖縄としては異例の寒空に響き渡っていた。
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