もちろん、ほとんどが心から成長を願って怒っているのは間違いないが、たまにいじっているきらいがある。選手への期待の大きさに比例し、皮肉を込めて報道陣にコメントすることが増える。そう、セ・リーグを独走する原監督の心配のタネは、何と言っても岡本和真だろう。
かつて自分もその座を長く経験したからこそ、若き4番打者のことが可愛くて仕方がないし、力が発揮できなければ厳しく叱責する。「ビッグベイビー」と命名し、いつもどこか気になって放ってはおけず、頭の片隅にずっといる。そんな本当の息子のように気がかりな存在が野手では主砲だとすると、投手で言えば今村信貴ではないだろうか。いつまでもハイハイをしてバブーと言っているわけにはいかない25歳。今年を最後の思春期とし、少年から大人へと変貌しなくてはならないシーズンだからこそ、前半戦は愛にあふれたハートフルな『親子』のエピソードに事欠かなかった。
原監督に“親孝行”をしたい強い理由
先発した4月28日のDeNA戦。試合途中に指揮官から、こう声をかけられたという。「もう少し見ていて楽しくさせてくれないか。マウンドで自分を高揚させて、楽しんで放ってくれ」。本当に原監督らしい、他人では思いつきもしないような金言を守り、マウンドで水を得た魚のように躍動し、7回2安打無失点。マジックをかけてもらい、今季初白星をつかんだ。仏の顔を拝んでいたら、すぐに鬼の一面にさらされた。5月23日の同カード。6点リードの5回、ソトに3ランを被弾した直後に降板を告げられた。勝利投手の権利まであとツーアウト。常勝軍団の先頭に立ち、勝負に徹した『親父』に、次は自力で勝ちを奪い取ってみろ、と奮起を促された。
『息子』としても開幕前から期する思いがあった。何としても結果で親孝行をしたい強い理由があった。高橋由伸政権だった2016~2018年。いつも耳にこびりついて離れず、片時も忘れることがなかった言葉を胸にマウンドに立ち続けてきた。
「将来のジャイアンツを背負っていかないといけない存在なんだ」
プロ3年目の2014年。原監督からの熱いエールに直立不動で聞き入った。「あの時は本当にありがたかったです。そう言っていただいたので、もっともっと頑張らなくちゃいけないなと思いました」。紆余曲折ありながらも成長曲線を描き、昨季はキャリアハイの6勝をマーク。前半戦は菅野、山口、メルセデス、桜井とともに先発ローテーションを担う戦力へと進化を遂げた。あの時、目を見開いた父の視界に捉えていた将来が現実になりつつあるのは確かだ。