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野球とSNSの相性のよさ

『おら夏』終了から約6年の月日が経った2011年。特段深い理由もなくツイッターのアカウントを開設したときのことだった。

 各都道府県の高校野球ファンが、次々と自分の知っている情報を投稿する。その地域だからこその“あるある”などの小ネタも数多く見られ、それがまたおもしろく、その光景に「あ、これ『おら夏』の空気に似てるなあ……」と懐かしさを感じたのだ。

 野球の競技人口が減少するなか、それに反して甲子園の観客動員数は上昇している。人気校、注目選手が複数登場する日は、始発で球場に来てもチケットを求める長蛇の列がすでにできている、なんてこともザラにある。

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 その盛り上がりにひと役買っているのが、「野球とSNSの相性のよさ」だと個人的に思っている。各大会の試合内容を速報する人、球場で撮影した写真をアップする人(球場内で撮影した写真の取り扱いは、各地区の高野連によって異なるのでルールを確認しましょう)。それぞれの野球の楽しみ方を気軽に発信できる場ができ、それに触れた人が興味を持って球場に足を運ぶ……というサイクルを生み出しているようにも思える。

 また、自由に発信ができる媒体が生まれたことで、専門誌や専門職の強いメディアには載り切らないようなニッチなネタに触れるチャンスが増加する。マラソンの増田明美さんのディープな情報をふんだんに盛り込んだ解説が評判を呼ぶように、競技の本筋から少し外れた情報にも、意外に需要があったりするものだ。

 少々大げさな言い方になってしまうが、『おら夏』はこの「野球とSNS」の盛り上がりを先取りしていたのだと今になって感じている。メールでの投稿がチェックの後に公開されるため、現在のSNSような即時性はなかったものの、インターネットを通じて人とつながりながら野球を見るおもしろさは新鮮で、人々を惹きつけるものだった。

 あの夏から14年。色々な縁と幸運に恵まれ、野球の取材をさせてもらっている。そういった立場になった今も、知らず知らずのうちにニッチな情報を追いかけてしまう自分がいることに気づく(取材にご協力いただいている皆さま、変な質問が多くすいません)。これは間違いなく『おら夏』の影響で、自分の野球の見方に多大なる影響を及ぼしていると改めて思うのだ。

 自分のなかで今も息づく「2005年の夏」を胸に、今度は見た人の観戦が楽しくなる知識を私から届けられたら、とひそかに思っている。

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