まるで何かに取り憑かれたような……
青木君の様子がおかしくなり始めたのは、道中で立ち寄ったコンビニからです。
「特に体調が悪いわけでもなさそうだし、気分を害するようなことはなかったはずだ」
「とすれば他に理由があるのかな」
「もしかしたら、何かに取り憑かれたとか」
一人が冗談で言ったこの言葉に、誰も笑うことが出来ませんでした。
「取り敢えず、俺たちも寝るか」と一人がテントに入ったその時です。
「あれ、青木がいない」
そう言ってテントから出て来ました。
「僕は先の建物で寝るよ」
「おーい、青木ー」
そう大声で叫ぶと、村の道の先で何かが動きました。
街灯の明かりが届くギリギリの所に、1人の人間が立ってこちらをじっと見ていたのです。思わず持っていた携帯電話のライトを向けますが、遠すぎるのか顔までは見えません。
「青木か?」
1人がそう問いかけると、
「うん、テントが狭いから、僕は先の建物で寝るよ」
そう言い終わると、暗闇へと消えていきました。今は刺激しない方が良いと、僕たちはそのままテントに入り朝を待ちました。
テントの外で何かが動く音がして、目を覚ますと、外の机でカセットコンロを触っている青木君の姿がそこにはありました。
「青木、おはよう」
僕がそう声をかけると青木君は笑顔で「おはよう」と返事してくれました。他のみんなも起きてきて、みんなで青木君の入れてくれたコーヒーを飲みました。昨夜の青木君と違い、元の青木君に戻っていました。
「昨夜は眠れた?」
そう聞こうかと思いましたが、昨夜のことをここで振り返り、再び青木君がおかしくなってはいけないと、敢えて誰も口にしませんでした。
太陽の下で見る村の様子は、昨夜の印象ほど陰鬱なものではありませんでしたが、数十年間の時の経過以上に、建物の風化が激しいように感じました。
建物の写真や、村全体の様子などを写真に収めていると、1軒の黒く煤けた建物がありました。あきらかに火事の跡である事は分かりましたが、この建物が、例のお年寄りから聞いた話と関連性があるのかどうかは分かりませんでした。