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“バースの再来”という言葉に期待してはいけない……阪神タイガースの今季を予想する

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/03/26
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「バースの再来」という言葉に「今度こそは」と思ってしまったが…

 翌年、大学生となった俺は、以前ほど熱心にスポーツ紙やスポーツニュースから阪神の情報を追いかけなくなった。逆に、少しずつ、批判的な眼をたくましくしていったように思う。

 もう騙されるものか。とまで思った記憶はないものの、在阪メディアの情報に頼らず、阪神強化への独自の視点をたくましくしていったのは間違いない。

 メディアと距離をとり、自身の感覚をたよりに選手、チームを眺めるようになった。そうして、はたと気づく。これまで、どれほどとんでもない情報で脳内を満たしていたのやら、と。

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 たとえば、新外国人選手が来るたびに報道される、あの「バースの再来」。メディアで目にするたび、耳にするたび、「今度こそは」と思ってしまったものだ。だが、冷静に考えれば、その願望は正気のものではない。バースは三冠王をとった選手。セ・リーグで言えば、戦後、三冠王に輝いたのは王貞治さんとバースの二人だけ。そんな「奇跡」のようなタイトルホルダーになぞらえ、新外国人の活躍を期待してしまう。これは、チームづくりとして根本から間違っている。それでも毎年のように報道されるたび、球団のほうも「ファンの声」を無視するわけにいかず、少なからずそっちに引っ張られる。「バース」というワンピースの欠損、これぞお家の重大事と言わんばかりに。FA でチームを強くしようとするのも同じだ。結果、若手選手の長期的な育成がおざなりになり、調子のいい選手の見極めが甘くなる……。

 2016年の新人王・高山俊選手をまったく生かせていないこと、2014年、実はかなり状態のよかった新井貴浩選手の出場機会を奪ったこと(翌々年、広島でセ・リーグMVP獲得)など言い出せばきりがない。

 俺はこの数十年、己の直感を磨きに磨いた。メディアのバイアスに惑わされず、どの選手が調子いいか、選手に流れる気のうねりを感じ、どのタイミングでそれが起こるか、こうしたことを見抜けるようになった。

 つまり、俺が己の阪神評に自信をもつ根拠は、情報収集力などにない。ただひたすら、己の感覚のみを頼みにしている。獲物を獲得するのが得意な虎に、どうしてあなたは獲物をとるのが得意なの? と訊くのは無粋にすぎぬ。それは、「虎だから」に尽きるのだ。

つい先日までかなりの確率で優勝するだろうと己の直感が告げていた

 今シーズンの予想に戻ろう。

 結論から言えば、まったくわからない。

 いや、つい先日までかなりの確率で優勝するだろうと己の直感が告げていた。その条件のひとつに、高山選手の復活があった。新人佐藤輝明選手が注目を受けるなか、じつは高山が首位打者を取るほどの活躍をする。それが、己の描いた優勝へのシナリオであった。

 だが、急転直下、状況が変わった。高山、まさかの二軍スタート。

 いま、俺の虎頭が猛烈に再計算を始めている。高山二軍スタートでの優勝の確率は? 再シミュレーションで、煙が出るほど俺の頭が燃えている。

 この数十年、磨きに磨いた俺の直感がしずかにささやく。

 「再計算まで、あと3カ月」

 シーズン中盤に、もう一度、予想を発表したいと思う。きっと、かなりの確率で的中するにちがいない。なぜなら俺は、虎だから。

©三島邦弘

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