青い空、心地よい風、青々とした芝生。この季節の甲子園球場は最高に気持ちがいい。本当なら……本当なら……芝生の香りをこの鼻で嗅ぎ、デーゲーム今季負けなしという阪神ファンにとって最もおいしい空気を吸えたはずだ。しかし、今年も大型連休に甲子園に入ることは許されなかった。連休に甲子園で野球観戦をすることが毎年の家族の過ごし方だったというファンも少なくないだろう。

©市川いずみ

「緊急事態宣言下では無観客」ということになっているが、雲行きは怪しい。もうしばらく私たちファンは甲子園に入れない状態が続きそうだ。チームは絶好調。“さとてる”のホームラン、“0点に抑えられてよかったです岩崎”の3人斬り。画面を通してでも十二分に楽しむことができている。そこで思い出してほしい。選手たちだけがプロ野球ではないということを。特に甲子園球場には、“神整備”の阪神園芸さんがいる。(筆者の幼少期の夢は阪神園芸のグラウンドキーパー。尊敬の念を込めて以下“園芸さん”と呼ぶ)。今では整備の為にグラウンドに姿を現すと拍手が起こる。ファンにとっても、見たいプロ野球の一コマ、なのである。

「グラウンドを耕す」甲子園が畑と化す時期

 最高に気持ちのいいグラウンドを作るには驚くべき時間がかけられている。選手の1年のスケジュールを考えてみる。10月~11月頃にシーズンが終わると、若手選手を中心とした秋季キャンプが行われる。12月はいわゆるシーズンオフで次のシーズンに向けた自主トレーニングは1月から。チームの始動はキャンプインの2月1日だ。園芸さんの翌シーズンに向けたいわゆるキャンプインは……「実は11月の下旬から12月上旬にかけて1週間、10cm弱ですけどグラウンドを耕して一応作ってきてるんですね」。阪神園芸の施設本部長金沢健児さんが話すようにシーズン終了直後に、まずはキャンプ地の高知・沖縄へ行き、2月に良いグラウンドで選手たちがキャンプを送れるようグラウンド作りを始めているのだ。

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 金沢さんの言葉の中にあった「グラウンドを耕す」。まるで畑仕事のようなワードだが、本当に甲子園が畑と化す時期が毎年あるのだ。甲子園が畑になるなんて嘘言うな、と思われるかもしれないが、ここで園芸さんから貴重な映像をいただいたのでご覧いただこう。

 

 耕運機1台でグラウンドを耕していく。これは毎年1月に行われる“天地返し”という作業の一部だ。「1月に行うこの作業が1年間のグラウンドの状況を左右するんで」1月にその1年が決まる。この天地返しこそが水はけのいいグラウンドになるかどうかの大事な仕事なのだ。では、天地返しとはどんな作業なのか。金沢さんにご説明いただこう。(心の中で関西弁で読んでください。より、金沢さんを感じられます)

「グラウンドの土の部分は30cmくらい入ってるんですけど、30cm全てではないんですけど大部分を耕運機で掘り返す。本当にグラウンドを畑のように耕して土を入れ替えたのと同じような段階にするんですね。一塁のラインに沿って耕した後今度は逆に三塁のラインに沿って耕す。だからクロス状になるんですよね。一度全部その方向にやってしまって次違う方向でやって。で、もう1回、1日置いてちょっと乾かして、でまた下の土と混ぜるのに翌日に耕すとかそういうことはしますね。

 甲子園の土というのは黒い土と白い砂、黄色い砂が混じってるんですけどね。土と砂って粒の大きさが違っていて土の方が細かいんですよね。砂の方が荒い。雨が降ったりもそうですし水を撒いたりするだけでも黒土の方が下に沈んでいくんですよ。それを1年間そのままにしておくと下の方で黒土が固まってしまって底の部分が固くなってしまう。雨降ってそのあと晴れたら、グラウンドの土をかき混ぜるんですけど、せいぜい上の2cmくらいなのでその下にも土は沈んでいくんですよね。シーズン中に雨の後土をかき混ぜるとやわらかくなるんでグラウンドをローラーで固めるんですけどその上側は何度も混ぜてほぐして固めてってしてるんですけど、その3cmくらいから下っていうのはずっと固められていたので、1年に1回固まった土を掘り起こして表面に出して黒土と砂のバランスを整えるという作業です」