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楽天で得られた「データを活用すること」

 ヤクルトを出る決断をしたとき、館山は「ほかの球団に行くことによって、情報量が増える」と言っていた。それは指導者として大きなメリットだと。では楽天で得られたものは、どんなものだったのか。

 特に戦略室が相当進んでいるという楽天。館山は2年間戦略室のスタッフとともにデータに触れてきた。最初は「こんなすごいデータもあるんだ」と思ったが、次第に自分が現役の時に考えていたことを数値にしているのがこの機械なのだ、と気付く。データを活用することが「だんだんと、あ、これをあの時こんな場面で使ってたな、という答え合わせになってきたんです」。

 そして、データという数字は「言葉」で選手に伝えなくてはならない。自分の言葉に信憑性をもたせるために、データを活用する。それが指導者だ。

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「データを活用することには弊害もある。データばかりを追い求めると、採点競技になってしまうので」

 言葉でいかに伝えられるか。それぞれの選手に合わせてどう生かせるか。楽天ではそうして、一人ひとりの投手と向き合う時間が多くあったという。

 さらに驚くべき変化があった。

「正直に言うと、今だと『何回転だ』『どんな軸か』『ホップ成分がどうか』っていうのは、機械を当てられるくらいになっちゃったんです。ずっと見てたから。あ、この人今2400回転くらいあるなぁ、とか、ホップ成分50cmくらいだとか」

 選手のフォームを見る力とともに、データを見続けたことで、機械の目と自分の目が揃うようになってきた。

「こんなに面白いことはないです。例えば、戦略室と『今(角度が)1時6分くらいじゃない?』『1時6分です』『今1時2分だね』『2分です』とか」

 もともと「タテペディア」と呼ばれたほどの知識量と探求心を持つ館山だが、そこに機械並みの目まで加わっていた。さらにそれを指導に生かすための「言葉」を日々駆使する彼は、目指す指導者への道を歩み続けている。

「自分が大事にしているものは……選手の『知りたい』に応え続けたい、ということですかね」

 それも、自分が離れてしまったり、アップデート出来なかったら、選手の「今知りたい」には応えられない。常に勉強し、情報を入れてアップデートし続ける。「今知りたい」に「今」の言葉で応え続ける。目指すのは、そういう指導者の姿だ。

トークショーでファンに握りを指導する館山氏 ©HISATO

「知りたい」ことへの欲求と、それを叶えるための飽くなき情熱

 BCリーグの球団活動は3月から始まる。年が明けてからの館山は、チャリティートークショーやスワローズライブの解説、YouTubeと積極的に活動の幅を広げている。

 YouTubeチャンネルは、上手くなるための技術や、トレーニングについてなど、色々な情報のデータベースとして作っていきたいという。

「あとはドクターとずっと話してみたりとか。なかなかそういう観点で話さないと思うんですけど。面白い面白くないとかじゃなくて。知りたい、っていう時に知りたいものがあるっていうチャンネルにしたいんですよね。執刀医と色々話すのって、ちょっと聞きたくないですか」

「知りたい」ことへの欲求と、それを叶えるための飽くなき情熱。館山の語る世界は深い。また、YouTube動画を作るにあたっては、福島の学生や福島のデザイナーなど「オール福島」で製作中だ。

 もう一つ。館山は、故郷である厚木市でも講演活動をしたいと思っている。小中学生に対してたくさん話したいことがあるからだ。自分はリトルリーグやシニアでやってきたわけではない。

「部活からここまで出来たんだよ、ということを伝えたい。独立リーグだから出来る恩返しがあるんです」

 シーズンが間近になる。選手へ、地域の人々へ、ファンへ、子どもたちへ。聞いて欲しい相手はどんどん増える。館山昌平の語る言葉が尽きることはない。

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