久々の文春野球でのコラム執筆がやって来た。もともと、開幕前の3月下旬からこの日の“登板日”は決定していた。2週間ほど先のことで時間はたっぷりとあったため「開幕投手を務めた藤浪の今季初勝利」「FAを行使せず残留を決めた梅野のV打」はたまた「新守護神候補・岩崎の今季初セーブ」か……。願望も込めていろんな妄想をしながらコラムのテーマを考えていた。が、しかし……2022年シーズンは蓋を開ければとんでもないことになってしまった。そもそも守護神は岩崎ではなくカイル・ケラーだった……。
開幕カードで前年覇者のヤクルトにスイープされると、セ・リーグワーストを更新する開幕9連敗。4月5日のDeNA戦でようやく初勝利を挙げたものの、翌日には12球団最速の10敗に到達してしまった。勝利の立役者となった選手の「ヒーロー原稿」を書くのが担当記者の醍醐味の1つ。日々追いかけてきた選手の1面記事に渾身のエピソードを盛り込むために番記者はオフシーズンから密着する。だが、開幕からずっと「きょうこそ」「次こそ」と締めくくる敗戦を伝える原稿を記者席からずっと書き続けている。2010年に「虎番」を拝命して今年で13年目を迎えたが、書き手としてもこんな“苦境”は初めてだ。
故郷・鹿児島から古巣の戦いを見守る日々
そんな中でバトンが回ってきた文春コラム。何を書こうか……。そんなことを考えながら甲子園の記者席からチームの練習を眺めていると、ふと「彼」の顔が思い浮かんだ。LINEのトーク履歴を探して音声通話ボタンを押すとすぐに「お疲れ様です!」と返ってきた。
「さっきまで市内の方で講演をさせていただいて今、帰ってきたところなんです」
横田慎太郎さんの声からは地元・鹿児島での充実の日々がうかがえた。
「ちょっと聞きたいことがあって……」
3年前まで在籍した古巣の苦闘に何を思うのか。率直に知りたかった。鹿児島では阪神戦のテレビ中継はほとんどないため、ネットで結果をチェックするぐらいというが、当然ながら長いトンネルを抜け出せないでいるタイガースの現状は知っていた。
「そうですね、僕なんかが偉そうに言える立場ではないですが……もし自分があの場にいたら苦しいというか、きついというか……。でも、まだまだ序盤なので下を向いて落ち込むよりはまた、力を一つにしてやってもらいたいなというのが率直な感想ですね」
多分に遠慮も込めて送った仲間たちへのエールは、実に彼らしい言葉だった。
脳腫瘍の闘病を経て、2019年に現役を引退。花道として出場した二軍戦での引退試合で見せた“奇跡のバックホーム”は今や書籍化、テレビドラマ化までされ、タイガースファンのみならず多くの人に感動、諦めないことの大切さを伝えた。当時、一軍はシーズン最終盤で3位・広島とクライマックスシリーズ出場を争っており、横田さんのラストプレーにも背中を押されたナインはさらに結束を固めて6連勝フィニッシュで逆転のCS進出を決めた。
「僕はヨコの分もプレーします」
これは、弟のようにかわいがっていた北條史也が口にした言葉だが、ナインの誰もが、今も胸に宿す思いでもある。