自らの苦手に向き合って内面からの解決策を持った選手たち
オースティン選手の右肘手術には、正直大きな喪失感がありましたが、術後すぐに米国から日本へと戻って来てくれました。
そのオースティン選手がこちらもキャンプ中盤、持ち前の打棒とは別に投じた一石がありました。今年のベイスターズは練習が一段落すると選手が輪を作り、選手主導で気づいたことを発言します。室内練習場で行われた走塁練習の際、オースティン選手がチームメイトに向け積極的な走塁への思いを話し始めました。石井琢朗野手総合コーチは「外国人選手から真っ先に、走塁に関しての発言があるとは思わなかった。足のスペシャリスト以上に、チームの柱になる人が走塁への意欲を示してくれたのは嬉しかった。皆の反応も良かった」と振り返っています。この時の走塁練習は非公開で行われたため、発言内容を詳細に知ることはできなかったのですが、チームの主砲が普段から実践し言葉として残した、どん欲に先の塁を狙う姿勢は、大事な局面でチーム内に呼び起こされると信じています。
メンタルの強化も印象的です。坂本裕哉投手は去年不本意な投球をした後「ピンチの時に熱くなってしまった」と振り返ることがありました。「ピンチに強くならないと防御率は良くならないし、長いイニングも投げられない」と一念発起。今年チームが招いた遠藤拓哉メンタルスキルコーチと向き合い、ランナーを出しても引きずらない心理状態を探ってきました。1学年先輩の上茶谷大河投手とも「ピンチで開き直ること」の大切さをじっくり話しお互い相乗効果も生まれているようです。
4月15日のスワローズ戦、2点を失った4回、なお1死一、三塁。打席の金久保優斗選手がスクイズを試み打球は坂本投手の前に転がりました。ホームへと向かう三塁ランナーはタッチアウトを狙えるタイミングでしたが、坂本投手は二塁に送球しフォースアウト、さらに一塁転送、見事な併殺で追加点を阻止。ベンチも驚いたプレーでした。この試合は敗戦投手になりましたが、坂本投手がピンチでも冷静に最善策を選べた証にも見えました。
また、2月の練習試合で追い込まれてから粘る打席が増えた神里和毅選手には、ツーストライクになってからの考え方を聞いたところ「欲を出さないことです」という答えがすぐに返ってきました。
4月12日のジャイアンツ戦から4番に入ったソト選手は、右方向の打球が増え、高打率を維持しています。
たとえ短時間で結果に直結はしなくても、自らの苦手に向き合って内面からの解決策を持った選手を数多く感じたことも、今年の特徴です。
選手たちが万全となり戻るまでには、もう少し時間が必要。ベイスターズにとっては歯を食いしばる戦いが続きます。
去年の5月、同じ様な状況で5試合が中止となったカープは交流戦で3勝12敗3引分けと1か月に渡って苦しみましたが、若手が着実に台頭。最後は3位ジャイアンツに2ゲーム差まで迫った例もあります。
仁志敏久二軍監督が「今年のファームの選手たちは、いざ一軍に呼ばれた時に自分が求められる特徴をわかっている」と評価する面々もアピールに挑戦中。
勝つことは簡単ではありませんが戦いは続きます。逆境を打開するエネルギーが、どこかで光を放つなら、逃すことなく伝えたいと心に決めています。
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