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同じ手術を乗り越えた選手たちをモチベーションに

 多くの人が心配をしてくれた。地元の友達、高校時代のチームメートや恩師。家族。そしていつも単調なリハビリに付き添ってくれるトレーナーへの感謝の思いも尽きない。治療をしながら毎日、愚痴を優しく受け止めてくれた。この永遠に続くような長く暗いトンネルにも必ず出口がある。そう自分に言い聞かせ、復活することで支えてくれた人に恩返しをすると誓う毎日だった。

 同じ手術を乗り越え、一軍の舞台で投げる投手の存在も支えになった。今年、マリーンズでは西野勇士投手が一軍でブルペン陣の一角を担っている。同じ年のバファローズの山崎颯一郎投手は昨年、復活しプロ初勝利をあげるとクライマックスシリーズ、日本シリーズでも先発をした。タイガースの才木浩人投手も同じ年で今年、復活後に白星を重ねている。同じ年の選手たちが活躍する姿を自分にダブらせ、想像をした。大きなモチベーションになった。

「この手術をして、このリハビリを行った同じ選手として復活した人たちを凄く尊敬している。オレも頑張らないといけないと思う」と種市。

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「投げられない事よりも怖いものはない」

 4月に二軍で1イニング限定の実戦復帰をすると4試合目の実戦となった5月20日の戸田でのスワローズ戦では2イニング。続く5月28日のベイスターズ戦(浦和)では3イニングと少しずつ強度が増していった。そして6月12日の横須賀でのベイスターズ戦でついに先発復帰。5イニングを投げて1失点。負け投手にこそなったが、先発のマウンドに上がった。7月12日のファイターズ戦(鎌ヶ谷)では6イニング、90球を投げるに至った。8月2日のライオンズ戦(カーミニーク)で6回3分の1を投げて被安打3、1失点。一軍の舞台がグッと近づいた。

「初登板は意外と投げられた。肘は大丈夫だったけど、腰が痛くなったり、肩、首が痛くなったりと久々の実戦で力が入って、違うところが痛くなったりして少し遅くなってしまった」と種市は笑う。

 手術という決断を経て長いリハビリ。実戦復帰後は入念に段階を踏み、今に至る。その間に多くの人が支えてくれた。多くのファンが一軍のマウンドに帰ってくる日を待っているとメッセージをくれた。色々な想いを胸にZOZOマリンスタジアムに戻る日を夢見てきた。

「楽しみというよりは責任を感じる。チャンスをつかみ取りたい。悔いのないように投げたい。そして感謝の気持ちを込めて投げたい。手術する前は打たれたらどうしようとか考えたりもしたけど、投げられない事よりも怖いものはない。投げることが出来るという幸せをしっかりと感じながら投げたい」

 まだ種市の右ひじにはハッキリと手術の跡が残る。人生を変えた手術だった。人生観も変わった。生まれ変わったと言ってもいい。若き23歳右腕が再びスタート地点にたどり着いた。井口資仁監督は11日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム、17時試合開始)での先発を明言した。もう一度、投げることが出来る野球人生において一生懸命に駆け抜ける。

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