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堂林翔太の初球ホームランで目が覚めた。「頼もしいカープ」が甦った夢のような時間

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/08/24

それはもう、夢のように美しい時間だった

 そこからの展開は皆さんもご存知のとおり。2回に會澤がタイムリーツーベースを放ち、続く矢野が「まさか」のプロ初ホームラン。苦手としている中日の柳から4点を奪い、完全に主導権を握ったのです。そして、これまた皆さんご存知、5回裏。堂林の打球がレフトスタンドのポール付近へ弾丸ライナーで飛んで行く。立浪監督のリクエストによってビデオ判定となるも、ベンチの全員がホームランを確信し、明るくふるまう。審判が出てきて右手を回す。ベンチとスタンドが再び盛り上がる。スゴい、スゴいぞカープ。ほんの数時間前に「終わった」と無意識に言っていた自分。気づけば目が潤んでいました。不安を抱いていたファンの前で、間違いなくカープは一丸となり、躍動していたのです。

 そして、投げては森下。スコアボードに「0」を並べ、迎えた最終回。河田さん、栗林ですか? それともいきますか? いきますよね? おお、森下だ! もはやテンションは最高潮。やっちゃれ、森下! ……ん? 待って。ちょっと待って。森下が右手の指先を気にしてる。マメか? ツメか? 大丈夫なのか? いけるのか? おお、いくか! ここで私の目は再び潤む……どころではない。最後まで投げるという森下の闘志に対し、完全に泣いていた。そして森下は代打の郡司を空振り三振に仕留めてゲームセット。2試合連続の完封勝利。

 選手がグラウンドに出てきて、ファンに一礼。私は何度も「頼もしい」と言いながらその光景を見ていたのですが、ここでベンチに戻ろうとする河田さんが足を止めます。なにかと思い見ていると、笑顔の森下がウイニングボールを渡しているじゃありませんか。受け取った河田さんは森下の肩をポンポンと叩き、改めてベンチに戻る。すると球団スタッフが満面の笑みでグータッチ。マスクをしているから表情は見えないけど、左手に持ったボールを「もらっちゃったよ」と言わんばかりに見せる。それはもう、夢のように美しい時間だった。

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 試合前の衝撃報道で大きく落ち込んだ自分、それ以前に、交流戦以降は負けを頭に入れながら試合を見ていた自分。そんな自分を蹴飛ばしてやりたいほどこの日のカープは頼もしかった。翌日もそうだった。残念ながらそれ以降は連敗が続いてしまうのだが、それでも自分の心は腐らなかった。なぜなら「頼もしいカープ」、3連覇していたころの表現で言えば「カープファミリー」。赤き家族の絆が健在であることを、その火種がしっかりとチームの中に灯っていることを改めて教えてもらったから。やっぱり自分はカープが大好きだ。もちろん他のチームにだってドラマチックなことは起こるけど、やっぱりカープじゃなきゃダメだ。他のチームじゃダメなんだ。喜びも苦しみも、これからもずっと、カープと共に歩んでいきたい。心の底からそう思った試合でした。

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