オリックスが強い。とても強い。オールスターまでのいわゆる「前半戦」、より正確には全143試合の58%に当たる83試合を終えて、49勝32敗2分の勝率.605。最後は敵本拠地で宿敵ソフトバンクを3タテしての貯金17である。ソフトバンクファンの中には、監督批判の声すら出ているけど、熱烈な元南海ファンの一人として言わせてもらえれば、藤本監督は悪くない。ただオリックスが強すぎるだけなのだ。

 因みに、オリックスが25年ぶりのリーグ優勝を遂げた2021年は同じオールスター前で42勝34敗11分の貯金8、日本一になった2022年は48勝47敗0分で僅か貯金1(かつては人生で「僅か貯金x」という表現が使える日が来るとは思えなかった)だった。だから、今年の成績は、過去2年の優勝した年と比べてもずば抜けている、と言える。

オリックスファン ©時事通信社

今でもまだ「強いチーム」に慣れていない

 それがどれくらいずば抜けているか数字で示してみよう。残り60試合を22勝38敗、勝率.367で終えても勝率5割以上。共にリーグ優勝した2021年と2022年の最終的な勝率は、.560と.539だったから、それぞれ30勝30敗の勝率.500と28勝32敗の勝率.467で超える事になる。仮に目標が28勝とすれば、リリーフ陣が併せて10勝すれば、6人の先発投手が一人3勝すれば十分だ。これどう考えても、今年も優勝するやん。

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 おかげでこの文春野球のオリックスチームのコラムにも、「あんなに弱かったチームが」とか「オリックスは本当に強くなりました」とか「オリックスは大人になった」とか、よく似た内容の記事が並ぶ事となっている(なお、最後の奴は筆者の文章だから、人の事は言えない)。

 そして、それが示す事実は単純だ。そう、野球コラムを書くような昔からのオリックスファンは、大変残念な事にリーグ2連覇を経験した今でも、まだ「強いチーム」に慣れていない。だから、未だに「本当に強くなった」などと言っているのである。だとすると、これはあかん。それは年取ったオヤジが、「今の若い者にはわからんやろうけど、昔はホンマに大変やったんや」とか、くだを巻いてむっちゃ嫌われる奴や。

ソフトバンクファンは貯金1でも「調子が悪い」と言っていた

 という事で、「強いチームのファン」というのはどういうものか、考えてみた。考える中で思い出した事が二つある。最初は今から遡る事5年前、2018年の事だ。この年はソフトバンクが工藤監督の4年目で、前年に続いて2年連続で日本一に輝いた年である。ソフトバンクはその後更に2年連続で日本一になり、4年連続で球界の頂点を占める事となる。正に全盛期と言っていい時代である。

 思い出したのはその年のゴールデンウィーク頃、テレビで観たとあるスポーツニュースの一場面である。福岡ドーム前で取材を受けているソフトバンクファンがこう答えていた。「今年のチームは開幕前からとても調子が悪いから心配だ」。テレビの前で目が点になった。この年のソフトバンクは4月を終えて12勝11敗、貯金1の成績だったからである。因みに同じ時のオリックスは借金5で、既に5位に沈んでいた。貯金があって、Aクラスにいるのに「とても調子が悪い」とは何事か、と思ったのを覚えている。

 とはいえ改めて調べてみれば、この時点でのソフトバンクは首位西武に6.5ゲーム差をつけられての3位。なるほど全盛期真っただ中のソフトバンクとしては、確かに「とても調子が悪い」状態だった事になる。

 もう一つ思い出したのは、2020年9月の事だ。この年のオリックスは開幕から最下位を独走、8月20日には西村監督が解任され、2軍監督の中嶋が監督代行に就任した。「育成と勝利」をキャッチフレーズに掲げた彼は就任直後から積極的に若手を起用、チームの雰囲気は一変し快進撃を続けている、と筆者の目には映っていた。しかし、中嶋監督代行就任後の結果は、29勝35敗3分の借金6。「あれ、あんなに勝ってたのに、どうして」と思ったものである。