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ベンチ内で佐野選手に寄り添ったのは大田選手でした

「もう、下を向かないと決めています」

 8月6日、佐野選手の代打に指名されたのが楠本泰史選手、結果はショートフライでした。その後8月は状態が上がらずヒットは2本のみ。「こんなに打てない時期が長いのは、初めてです。あの時結果が出していれば違う状況になったのかな」と話す楠本選手。レギュラー選手の代打は何度も経験してきましたが、キャプテンの代打は反響も大きく、後の不調も併せ楠本選手のSNSには厳しい言葉が寄せられました。

 それでも楠本選手は前を向き、試合後は出番の有無に関わらず誰よりも遅くまでバットを振り続けます。「もう、下を向かないと決めています。マイナス思考になる時間があるのだったら、できる準備があります。やらずに結果が出なかったら一生後悔しますから」と。今は上手く行かなくても、いつかきっと実る時が来ると信じて伝えたい、そう心から思わせてくれる選手です。

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「佐野選手はチームリーダーであると同時に、もっと選手として大きくなる存在ですから」

 楠本選手が試合へ臨む姿勢を学んでいる先輩が、大田泰示選手。

 大田選手は7月まで打率.134と苦しみながら8月の打率は上昇カーブを描き.262、半分以上の試合でスタメン出場しています。8月24日、連敗を4で止めたカープ戦後には「試合前のミーティングで、今日を分岐点にしようと皆で話していました。」と明かし、状態の良さを聞かれると「年数を重ね備えも多いのですが、やはり準備を怠らないで良かったと思う」と答えてくれました。

 途中出場の日も初めから試合に入り込みベンチで元気な声を出す。声を出せるのは、チームメイトをよく観察して良さを知るからです。

 前述の佐野選手に代打が送られた時、ベンチ内で佐野選手に寄り添ったのは大田選手でした。「慰める言葉はかけていません。今のチームの課題、春先にできていたのに今できなくなっている事、2アウトからのチャンスメイクではなかなか得点につながらない事など、客観的に状況を伝え、次のステップを話していたのです。佐野選手はチームリーダーであると同時に、もっと選手として大きくなる存在ですから」と。

 この言葉に、大田選手が持つ唯一無二のコミュニケーション力を感じました。佐野選手が無念の思いを短期間で前を向くエネルギーに変えた一助だったのではと、思っています。

 今は体調を崩しファーム調整中の大田選手が復帰すれば、ここからの戦いで大きな力となります。

大田泰示選手 ©tvk

着々と自信をつけ、育っているベイスターズの新しい力

「笑顔が力を引き出すチームなのかな」

 今年の夏、ベイスターズの勝利は接戦が多くリリーフ陣は日毎の好不調こそあれ、踏ん張っています。人呼んで『微笑みのストッパー』森原康平投手は8月だけで9セーブ。「様々な考えはあるけど、ベイスターズは笑顔が力を引き出すチームなのかなと。自分自身、守備固めで入ることが多い柴田竜拓選手の笑顔に元気づけられていますから」と言う森原投手の口角は、厳しい場面でも優しく上がっていました。

「もはや緊張もしませんでした」

 もう一つ、8月に芽生え、今後大きな力になりそうな若い力からも目が離せません。梶原昂希選手の足首捻挫は残念でしたが、9月3日のジャイアンツ戦で代打満塁ホームランを放つと8日のスワローズ戦でも先制ホームランの知野直人選手、本来の力強さと粘りが発揮されて来た蝦名達夫選手もスタメンの機会が増加。

 去年7月に支配下登録され、今年8月13日のジャイアンツ戦でデビュー、150km/h を超す切れ味抜群のストレートを投じる宮城滝太投手は「やっと一軍に上がれました。今までの自分への悔しさが大きくて、もはや緊張もしませんでした」と頼もしい表情。

宮城滝太投手 ©tvk

 ファームではルーキー松尾汐恩捕手が9月6日にサイクルヒットを達成。ベイスターズの新しい力も着々と自信をつけ、ここからの戦いを元気づけるべく育っています。

 元ベイスターズキャプテンで、現在解説を勤める石川雄洋さんは「少しずつチーム状態が上がれば、CSに進んだ時に良い状態になる可能性が」と話しました。石川さんの朴訥な言葉の中に、先への戦いで目指すベクトルが見える気がします。

 苦戦した夏を過ぎ、ここからの戦い方への答えは、間違いなく皆が持っています。

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