「あえて-10くらいをキープしてやってました」
技術や成績の向上もさることながら、今シーズンは関根選手のハートフルな場面をよく見る。感情のコントロール。これに関しても、ここまで辿り着くまでに紆余曲折があったのだ。
私が在籍したシーズンの途中までは、彼はプレー中ほとんど感情を表に出さなかった。しかし、それ以前の彼は感情の起伏が大きく、それではダメだと思い感情を一定に保ってプレーしようと考えての結論だったと教えてくれた。
「0が普通として、100が最高、-100が最悪の感情だとすると、0で保つのも難しいと思ったからあえて-10くらいをキープしてやってました」
私は、それが彼のプロとしての姿だと、それ以上も以下もなく感じていた。ただ冷静を保っていただけだと感じていたが、その真相は-10でのキープ。さらっと言ってはいるが、なかなか思いつかないし、思いついても、あえてマイナスの域で感情を保つことがどれほど難しいことか。これを知って、やはり関根大気はすごいなと感じざるを得なかった。
彼をよく知っている人なら誰であろうと、その彼の姿は考えられて作り上げられていると、工夫してのことだと感じられるだろう。しかし、彼をよく知らない人からすると「やる気あるの?」と捉えられることもあったという。当たり前だが、彼もそう思われることに関しては嬉しくはない。そして、そこに居るのはもはやルーキーの関根大気ではない。簡単にはぶれない芯がある。当時のコーチである万永貴司さんが、関根選手に感情を自然に出していくことを提案した。そこからは、今の彼のように、熱い関根大気が戻ってきたのである。
彼の熱い思いの大元、それは大切な人達の存在だと、どの話を聞いていても伝わってくる。
誰かを思う気持ち、大切な人達の存在
5.20の試合でチームメイトが死球を受けた際、関根選手は二塁ベースから投手に詰め寄り、言葉も発している。ここまで熱い男だっけ?などと思いながら、話を聞くと、メキシコでの経験が大きかったと教えてくれた。
「メキシコでは周りのみんなが僕のことを本当の家族のように扱ってくれて。それが本当にいい経験だったと思います。今でも強く心に残っている言葉があって、チームメイトの家に招待してもらった時、『私の家は、あなたの家だよ。いつでも来ていいし、帰ってきていいんだからね』って。この経験が、深く印象に残ってます。だから、日本でも、僕はそう思いたいなって感じて。
チームメイトは家族みたいなものですから。例えば僕に何かあった時に、周りの仲間がひとつ手を差し伸べてくれたら、その気持ちに少し救われるというか、嬉しい気持ちになると思うんですよね。だったら、チームメイトに何かあった時、僕は黙ってるんではなくて何か行動したいと思います。その対応がいいこともあれば間違った対応になってしまうこともあると思います。間違った対応をしてしまったとしたら、反省して改善していく、それだけですね。下を向く、後ろを振り向いてしまう時間は少なくていいのかなと思ってて。前向きに、良い心で就寝の時を迎えられたら次の日に向けて最高なスタートになると思うから」
誰かを思う気持ち、大切な人達の存在。それは彼に野球以外の面でもいい影響を与えてくれている。家族の存在だ。
「以前までは、オフの日も次の1週間の為に全部の時間を野球に使ってましたけど、今は物事を人生単位で見られるようになった気がします。もちろん野球の準備は最大限しますけど、それ以外に家族と過ごす時間をとても大切にしてます」
彼は、今自分が野球に打ち込めているのは家族のおかげだと強く語ってくれた。野球ができる時間は有限であるからこそ、全力で全うする。それができているのは家族の支えがあってのことだと何度も感謝の気持ちを述べていた。そして、人生単位で見た時に、野球をしていられる時間はほんの一部であるからこそ、しっかりゴールを決めてそこに向かっていけるように頑張っていくと話してくれた。大きな視点、小さな視点、野球も人生も、その視点の切り替えを上手くやっていくことが大切なのかもしれないですねと、そんなことも教えてくれた。結果が正解になる世界で生きている以上、ここまで話してくれたことは全て現時点の事だから、ゴール以外は変わることもあると、いい意味で変わることに前向きな言葉も聞かせてくれた。
最後に、どうしてそんなに好青年でいられるのかアドバイスを請うたところ、「色々話してますけど、いーっぱい失敗もしてますよ。特にいつも奥さんには怒られてばっかです!」と笑って話してくれた。
完璧に見えるあの人も、強そうに見えるあの人も、最初からそうだった訳ではない。
積み上げて、あくまでも少しずつ進むしかないのである。裏技みたいなものはないのである。それでも、その積み重ねが、私たちを遠くまで運んでくれるのだと信じて、まだまだ終わらないシーズンに期待するのである。
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