スターが本格的な演劇に取り組むことがステータスになる、15年以上前。彼は演劇界の寵児たちに見初められ、アングラの極北ともいえる舞台に立っていた――。

 

(しまざききょうこ 1954年、京都市生まれ。ノンフィクションライター。著書に『森瑤子の帽子』『安井かずみがいた時代』『この国で女であるということ』『だからここにいる』などがある。)

 60年代から70年代は、さまざまな分野で既存の価値観を書き換える地殻変動が起こっていた。時代のアイコンとなったジュリーとショーケンには、新しい表現を求める映画監督や演出家、脚本家や写真家など多くのクリエイターからラブコールが殺到する。視覚的な演出で世界から喝采を浴びた演出家、蜷川幸雄も2人と交わったひとりであった。

 蜷川のエッセイに、「ジュリー」というタイトルの一文がある。1985年、沢田研二が渡辺プロダクションから離れて個人事務所ココロを設立した時、1年ぶりに開くコンサートの演出を託された演出家が、その頃に土曜日の日経新聞第二部に寄稿したものだ。ここで蜷川は、沢田との出会いを12、3年前、帝国ホテルの横を歩いていて旧知のショーケンと一緒のジュリーと出くわし、3人でホテルのカフェに入ってお茶を飲んだ時、と書いた。

〈ジュリーは一言もしゃべらなかった。ショーケンだけが映画の話や演技の話をした。ショーケンは立上ると通路で演技をやってみせたりした。ジュリーはぼくらの会話に加わらなかった。彼は黙ってコミック雑誌を読んでいるだけだった。その表情から、ぼくらの話が聞えているのかどうか、判断することはできなかった〉(85年8月3日「日経新聞」)

 蜷川との出会いは、沢田より萩原健一の方がうんと早かった。69年、まだ19歳の萩原は、演出家になったばかりの蜷川と邂逅する。ザ・テンプターズ時代の一時を共に暮らした江波杏子と蜷川の妻、真山知子(蜷川宏子)が映画で共演して仲よくなり、その縁で15歳年上の蜷川を慕い、友だちになったのだ。互いの家を訪ね、互いのステージや舞台へ足を運んだ。

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source : 週刊文春 2021年12月30日・2022年1月6日号