(まつなえあけみ 漫画家。1956(昭和31)年、東京都生まれ。代表作『純情クレイジーフルーツ』(集英社)で第12回講談社漫画賞を受賞。『恋愛内科25時』(秋田書店)、『原色恋愛図鑑』(小学館)他著書多数。近著に『松苗あけみの少女まんが道』(ぶんか社)がある。)
1億1000万円借りて西荻窪に家を買ったのが1989年。バブルの恩恵で、漫画家でもローンが組めちゃったんです。でも繰り上げ返済を焦るあまり、仕事量ばかり大事にしてしまって……。だから漫画家が家を買うなら現金一択! そうすればローン返済のために漫画を描くような本末転倒なことにはなりませんので(笑)。
高い作家性で伝説となった少女漫画雑誌『ぶ〜け』。その黄金時代を築いた漫画家の一人、松苗あけみさんは、美麗な絵柄と下ネタギャグが融合した代表作『純情クレイジーフルーツ』で80年代に一世を風靡。40年経った今も、色褪せない魅力を放つ。
松苗さんは1956年、中央線西荻窪駅前にあった「松苗表具店」に生まれる。父は紙を使って掛け軸や屏風を作る職人だった。
店をはじめたのは祖父。駅前にある有名な洋菓子店「こけし屋」の横を曲がった場所にありました。昔1万円札を間違えて切ってしまった時、あの薄い紙をピタッと張り合わせる祖父を見て、「職人!」と感嘆して。跡を継いだ父も、全身サイズの和紙をまっすぐツーッと完璧に切ることができました。そういう職人技を見て育ったからか、自分自身はどんなに汚くても作品だけは美しく、完璧に仕上げたいという姿勢が染み付いていて。下手でも丁寧に描くことだけは心がけています。
家系的に手先が器用なのか長兄も絵が得意で、次兄は機械いじり。洋裁が得意だった2つ上の姉はヨウジヤマモトのパタンナーになりました。そんな4きょうだい含め、祖父母や住み込みの職人さんやお手伝いさんもいたので、最盛期には店舗付き住宅に12人が暮らしていました。30坪ほどの敷地の半分が作業場で、残りに車庫と住居スペースがひしめき合う間取りでしたが、私が小さい時に2階を増築。家族は2階で暮らし、1階は作業場と職人さんの寝床という感じで、店のスペースが集約されました。狭い家でしたから、皆がくっつきあってご飯を食べる、まるで『寺内貫太郎一家』のような食卓でしたね。
4きょうだいの末っ子で両親は商売が忙しかったこともあり、職人さんが作業場の横で私のおしめを取り替えてくれて。木槌で建具をはめる「コンコンコン」という音、「シャーッ」と紙を切る音が子守唄でした。
漫画との出会いは幼稚園の頃。後にアシスタントを務める一条ゆかり先生の作品などに触れる中で、少女あけみの心は「漫画家」へと傾いていく。
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source : 週刊文春 2022年2月17日号