黒いニット帽を目深にかぶり、黒のダウンジャケットも着たまま。麒麟の川島明は、手狭なホテルのシングルベッドに腰をかけ、ただ、黙っている――。
「M-1史上に残る名シーンのうちの一つですよね」
そう話すのは、この前年、2007年から総合演出を務めていた朝日放送(ABC)の田中和也だ。
田中が挙げたシーンはDVD『M-1グランプリ2008』のDISC.2に収録された密着ドキュメントの中にあった。田中が解説する。
「担当ディレクターがホテルまでついて行って、川島君は、ホテルで準決勝敗退の知らせを受けたのかな。2、30分、無言だったらしいですよ。ラストイヤーやったんでね。ディレクターも、何もしゃべりかけられんかったって」
相方の田村裕の映像も残っている。路上で受けた電話で結果を知り、ガックリとうなだれた。電話をくれた相手に決勝進出者を尋ね、電話を切るなり「そうかぁ……NON STYLE通ったか」とつぶやいた。
NON STYLEが初めて決勝に進出した08年は、勝者の光彩と敗者の陰影のコントラストがもっとも色濃く浮かび上がった年でもあった。
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source : 週刊文春 2022年3月17日号