(あじがわりゅうじ 大相撲親方。1978年、青森県生まれ。本名・杉野森竜児。伊勢ヶ濱部屋。97年1月場所で初土俵を踏む。2007年に自己最高位となる関脇に昇進。19年7月場所に現役引退。殊勲賞4回、敢闘賞2回、技能賞6回。22年5月29日(日)に両国国技館にて断髪式を行う。)

 

 この5月場所後に、やっとマゲを切ることができます。40歳の時、2019年七月場所で現役を引退しましたが、コロナ禍もあって断髪式を2度も延期していました。マゲを落とすのに寂しい気持ちもありますが、もういい加減、毛髪がもちませんよ(笑)。

 そう目を細めて笑顔を見せる元関脇の安美錦(あみにしき)。現在は伊勢ヶ濱部屋所属の安治川親方として後進の指導に勤しみ、「安美錦引退 安治川襲名披露大相撲」の準備に多忙な毎日を送っている。1978年、青森県西津軽郡深浦町に生まれた。

 父は漁師で、民宿「杉野森旅館」の経営もしていました。地元の方たちが大広間で宴会をしたり、建設工事に来る人が数カ月いたり、富山の薬売りの方などが毎年定宿として2週間くらい滞在するような小さな宿です。調理師免許を持つ母と、祖母が旅館を切り盛りしていました。5、6年前、そうそうお客さんも来ないし、両親もすでに70歳を越えて体もしんどくなったのか、旅館は閉めてしまいました。

 2階が大広間で客室が3部屋、1階が今でいう3LDKかな。仏間と、両親と祖父母の部屋、リビングとキッチン。兄や妹、僕は両親や祖父母の部屋で寝て、長い廊下に勉強机を置いていました。中学生の頃に増築して、子どもたちそれぞれに個室が与えられましたが、ほとんど勉強はしませんでしたね。

イラストレーション 市川興一/いしいつとむ

 家の裏手がすぐ海で、台風の時は波がバンバン打ち寄せる。家から道路を挟んだ向こう側には山もありました。時期によりますが、秋には鮭、冬にはヤリイカが捕れた。春夏は漁がなくて、網の修理をしたり、潜ってもずくを取ったり。僕も中学や高校の頃までは、うちの「海鷹丸」という船に乗って漁を手伝っていました。日本海は波も荒いので、揺れる船に踏ん張って乗り、それで足腰が鍛えられたのか、相撲に大切なバランス感覚が養われたとは思います。ただ、寒いし、朝早いし、船酔いもしてしまうので、船に乗るのは好きではなかったですね。カワハギの皮を剥いだり、トロ箱に氷や魚を詰めて運んだり、土嚢を作って沈めたり。そんな力仕事をして“ナチュラルトレーニング状態”でした。漁の解禁日になると、登校前にミカンを入れる袋を腰に着け、シュノーケルをくわえて潜るんです。終電は夜6時だし、高校生が遊びに行くところもなかったですから。

相撲一族の一員として育つ。入門後、東京の夜の明るさに驚いた

 漁師は、朝5時から海に出て、9時には帰ってくる。それからみんなパチンコ屋に行って、『海物語』でまた魚を捕まえに行くんですよ(笑)。車で20分ほどの鰺ヶ沢町にスーパーや温泉の湧いている銭湯があり、父をはじめオトナたちが集まっていました。もし相撲の道に進まなかったら、漁師の仕事も選択肢にあったのかなと思います。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題
コメント機能も使えます

週刊文春電子版に超おトクな3年プラン59,400円が登場!月額プラン36ヵ月分と比べて19,800円、年額プラン3年分と比べて6,600円おトク!期間限定12月2日(月)まで!

キャンペーン終了まで

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

  • 3年プラン

    59,400円一括払い、3年更新

    1,650円/月

    オススメ!期間限定

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

有料会員になると…

世の中を揺るがすスクープが雑誌発売日の1日前に読める!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る
  • 0

  • 0

  • 0

source : 週刊文春 2022年5月26日号