文春オンライン

「検討中」だらけの改正入管法 11の珍言で成立を振り返る

山下法相「さまざまなご意見をいただき、感謝申し上げる」

2018/12/18
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経団連会長は改正入管法成立を「歓迎」

中西宏明 経団連会長
「本格的な人口減少を迎える中、社会生活や産業基盤の支え手の確保という課題に真摯に対応したものであり歓迎する」

経団連ホームページ 12月8日

 なぜ政府はこれほどまでに法案成立を急いだのか? 人手不足の解消を強く要望していたのは経済界だ。経団連の中西宏明会長は改正入管法の成立を「歓迎する」というコメントを発表した。経団連は2004年に発表した「外国人受け入れ問題に関する提言」でも「現場で働く外国人の受け入れを巡る問題をいつまでも先送りにすることはできない」という表現で外国人労働者の受け入れを求めている。

 立命館大学政策科学部の上久保誠人教授は、改正入管法の国会審議で安倍政権の姿勢が明らかに変わったと指摘する。細部は法律成立後に政省令で定めるとして、中身のない法案を提出し、野党が何を質問しても政権側は「検討中」と答えるのみ。「これまでのような、しどろもどろでも答弁しようとする姿勢すら捨てたのだ。安倍政権に『白紙委任せよ』と求めるに等しい」。

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 さらに上久保氏は、「白紙委任」の法案を出して、国会での審議を行わず、強引に成立させたことについて、「『保守派』と『業界団体』の板挟みが生んだ」と解説する。改正入管法は自民党の支持層である業界団体や地方の要望に応えたものだが、同じく自民党のコアな支持層である保守派の反発を受けている。しどろもどろの答弁をしていると、保守派からの突き上げを受けてしまうだろう。来年7月の参院選の勝利を目指すためには、「『白紙委任』の法案を即座に通してしまうという、粗っぽい国会運営」が必要だったのだ(ダイヤモンド・オンライン 12月11日)。

「なぜ導入するのか」に法務省幹部は「総理や官房長官の指示」

菅義偉 官房長官
44年ぶりの人手不足ですから、このままいったら国民生活に大きな影響が出る」
FNN PRIME 11月26日

菅義偉官房長官 ©文藝春秋

 政権内で改正入管法の成立を強く推進したのは、菅義偉官房長官だ。11月25日の講演でもあらためて同法案の今国会での成立と、来年4月からの新制度導入を目指す考えを強調した。

 9月に行われた講演では、「介護人材が大幅に不足していて、そこに端を発し、さまざまな業種にヒアリングをしたところ、十数業種で外国人材がいなければ事業に大きな支障をきたす」と説明していた(産経ニュース 9月26日)。10月の外国人労働者の受け入れ拡大策などを検討する関係閣僚会議では、「全国各地の現場では人手不足が深刻化している。即戦力となる外国人材を幅広く受け入れる仕組みをつくることは急務だ」と発言していた(朝日新聞デジタル 10月12日)。

 10月の自民党法務部会では、来年4月の制度導入を目指す理由を問われた法務省幹部が「総理や官房長官の指示」と答えた場面もあったという(朝日新聞デジタル 12月6日)。ジャーナリストの田原総一朗氏は、経済学者の高橋洋一氏が「法務省は、外国人労働者を増やすことに反対している」と語っていたことを明らかにしている。しかし、首相官邸から入管法の改正を要請されていたため、法務省はやらざるを得なかったのだという(日経ビジネスオンライン 12月14日)。