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「俺は奴隷じゃない」「洗脳された」日本語“最強”技能実習生の独白日記

2018/12/26
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「『君の名は。』の舞台です」に絶句

<それでもいっぱい稼いで今までとは違う、豊かな人生を歩むことを信じ、町工場に入り働き始めました。だが、私達を迎えたのは年季の入った町工場、そのなかで働いていた人も年上ばかり、これから扱う染色機も私達より年上なんです。職場で使われる言葉もほとんど方言だし、タメ口もしょっちゅう聞こえるし、日本語学校で教えてくれた言葉とは次元が違うレベルといえると思います。その優しい日本語が消えてがっかりしたわけ、洗脳されたと思われるわけ。

 町工場での仕事中に「なんでやおめえ、仕事できなきゃ、国に帰れ。わいわいうるせぇ、早く仕事せよ。ボーっとするんじゃねえ、仕事に戻れ」、こういうふうに言われても腹立つんですけど、研修生の身である以上、受け身にならざるを得ませんでした。>

 技能実習生たちが日本で配属される場所は、多くが地方の第1次・第2次産業の現業の職場だ。受け入れ企業の8割は、従業員数が49人以下の中小企業である(個人経営に近い会社も多い)。

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 ゆえに、大企業と比べると財務基盤や法令遵守意識が薄い企業も多い。経営者や従業員が外国人慣れしていないケースもまま見られる。差別的な言動を自覚せずにおこなったり、外国人に対して方言で仕事の指示を出してそれが通じないことを理由に相手を罵倒するような例もあるということだ。

 ちなみに范とは別の人だが、アニメ映画『君の名は。』を見て日本が好きになり技能実習生に応募した結果、岐阜県内の縫製工場でひどいセクハラに遭った中国人女性に取材したことがある。中国側でブローカーの説明が不十分なこともあり、最近はワーキングホリデーと勘違いして技能実習生になってしまう中国人もいるのだ。

 私が「あなたがいま働いているこの場所が、『君の名は。』の舞台の岐阜県なんですよ」と伝えたところ、彼女はしばらく絶句したまま動かなかった。

レンコン畑で収穫作業に当たる技能実習生たち ©共同通信社

8年間で174人が死亡

<それでもとりあえずそれらに目をつぶってがんばって働くしか考えてなかったのです。ところが染色という仕事は日々、身体に害を及ぼす染料に触れ合い、運ぶこと、工場内で漂う臭いも鼻を突くほど、非常に苦しかったんです。

 仕事帰りに疲れ果てた私達を待つ帰る家が、会社側が提供した寮なんです。4人で40平米ぐらいという小さい空間に住んで、電気代や光熱費などを含めず、家賃だけでも5万円ぐらいです。>

 范本人に聞いたところ、工場での仕事は「朝から晩まで300度から500度の高温の液体で染料を煮て布を染める」ようなものだったらしい。中国国内では「実習」の内容が危険作業である説明どころか、日本で肉体労働に従事することすらまともに伝えられていなかったという。

 付言すれば、12月13日に法務省がおこなった野党合同ヒアリングによると、2010~2017年の8年間で死亡した技能実習生は174人もいる。だが、問題は労働環境の劣悪さだけではなく、そもそも賃金が低すぎることだった。