徒競走と算数――バカバカしい選抜試験
<そこで知り合った同じこころざしを持つ人が何人かいました。後に仲間となった3人はほとんど私みたいに底辺社会で息苦しく暮らす、日本行きを通して一攫千金を夢見る若者達、1人はシンガポールで出稼ぎ経験を持ち、ほかの2人は出国経験無く、誰かが紹介してもらい仲介業者を通して送り出し機関に来ました。
それで握手、走りを通して体力はあるかどうかをチェックしたり、小学生レベルの算数をしたりしたというばかばかしい選抜に参加した後、テストに合格して組合が運営する技能実習生を受け入れる日本語学校で勉強し始めました。>
ブローカーによりスカウトされた技能実習生たちは、日本側の監理団体(組合とも。後述)と提携する「送り出し機関」と呼ばれる組織に集められる。そこでは、徒競走や算数のような「ばかばかしい選抜」を通じて非熟練労働者としての最低限の能力をチェックされた後、ごく簡単な日本語教育や日本社会でのマナー研修を施される。
日本の公共施設に立ち入るな?
<今、考えたら勉強というか、まさに洗脳そのものと思います。何故かというと、日常会話も読み書きもかけ離れる言葉ばっかり、「原型を使ってはならない、できるだけ丁寧な言い方をすべき」と言われ、守らなければ罰を加え、そしていろいろ可笑しなルールをつけられたり、守らされたりと、要求されました。
日本に来た以上、日本のルールと法律を守ることが当たり前のこと、そう思われてもしょうがないが、ただし公園や駅の待合室にすら入ることが許されません、つもり日本の人に研修生の存在を見せたくないのでは?>
下の段落の内容を補足しておこう。范によれば、中国国内の研修と、来日後に監理団体(後述)が開いた研修の双方で、技能実習生は日本の公共施設に立ち入るなと指示されたらしい。おそらく、社会生活を制限して逃亡を防止する意図からそうした指示がなされているのだろう。
技能実習生たちは日本への到着後、いったん監理団体と呼ばれる日本側の受け入れ機関に集められ、それから国内の各企業に配属される。この監理団体の仕事は企業に対する実習生の斡旋と、来日した実習生たちの監督(監理)だ。しかし、監督業務を真面目にやらなかったり、トラブルが起きた場合に顧客である企業側の肩を持つ団体が多いことが、問題をより深刻にしている。