ノンフィクション作家で探検家の角幡唯介さん(42)は、『極夜行』で「Yahoo!ニュース | 本屋大賞 2018年ノンフィクション本大賞」を受賞した。GPSを持たず紙の地図とコンパスを頼りに、太陽が登らない「極夜」の闇を旅した角幡さんは、「脱システム」という持論を掲げて冒険を続けている。44歳でヤフー社長に就任し、現在はヤフー会長とヤフーの子会社である「Zコーポレーション」の社長を務める宮坂学さん(51)は、「ビジネスシーンでも『脱システム』は起こすことができる」と話す。全く異なる世界で暮らすように見える二人が、それぞれの「脱システム」論を語った。
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ビジネスの世界にも「脱システム」に共感する人が
宮坂 ツイッターで見ましたよ。最近、鎌倉の幼稚園でも「脱システム」について講演されたんですよね?
角幡 そうなんですよ、娘が通っている幼稚園から頼まれて。
宮坂 どういう反応でしたか、お母さん方に話してみて(笑)。
角幡 いや、すごい評判よかったんですよ。自分たちの手でトンカチを使って材木からおもちゃを作ったり、泥遊びをさせたりして、創造性を育むというようなちょっと地域では有名な幼稚園で。「脱システム」幼稚園じゃないですけど。
宮坂 すごい幼稚園ですね(笑)。
――「ノンフィクション本大賞」の授賞式でも対談したお二人ですが、控え室で角幡さんの近年のテーマである「脱システム」の話題で盛り上がったと伺いました。
宮坂 そうなんですよ。IT関係者が集まる会合で、角幡さんの『極夜行』の話をしたところ、「僕たちこそ『脱システム』しないといけないよね」という話になって。
角幡 ビジネスの世界でも、共感する人がいるということが気になったんです。もっとじっくり宮坂さんとお話しできればと思って、今日は来ました。
現代の冒険は、ガチガチに決まりすぎている
――「脱システム」とは、「探検とは人間社会のシステムの外側に出る活動である」という角幡さんの持論のことですね。
角幡 まずどこから話せばいいですかね……。まあ、冒険分野の話をすると、本来的に冒険というのは、まず現場に行ってみて「システム」のない世界に飛び込むものだと思っているんです。昔の探検なんて、特にそうですよね。まだ地図のないところへ行って、船でこの先もずっと進んで行ったら島があるのか、ないのか分からない。例えば北極探検だったら、どちらの海峡に行ったらいいのか分からないまま、右に進んだら間違いで、パックアイスが船を囲んで動けなくなって死んでしまう。そういう世界だったわけですよ。
現場の状況で、判断や選択をして、行動に移す。その結果がもろに自分の命へ跳ね返ってくる。つまり、現場の状況次第で未来が切り開かれていくような環境が、冒険の本来の形でした。でも、今では様々な要素が、ガチガチに決まってきすぎちゃっている感じがするんですよね。
――どんどんシステマティックになってきている、と。
角幡 ええ。昔からすごく違和感はあったんですよ。何か努力したら答えを得られるものに、人々がワーッと押し寄せているような気がしていて。特に山登りの中でも、アルパイン・クライミングは最も過酷な環境で行うという意味で、トップオブ登山とも言えますが、そういう分野ですら、既存ルートに群がるような傾向が出ていると思います。
エベレスト登山も、要するに答えがあるものですよね。今、エベレスト登山って、まずはこのあたりまで登って、1回下りて、高所順応で体を慣らして、また次の段階に行ってみたいな感じで、かなりやり方が決まってきている。
宮坂 ツアーにも出たりしますよね。
角幡 前に宮坂さんがおっしゃっていたのは、ITの世界でも、日本にヤフーが作られた頃は、非常に未知の世界だったけれども、今はそういう面白みがなくなってきちゃったと。