唯一無二ともいうべき振り飛車党
対して、王将の防衛を目指す久保は今一つ調子が上がっていない。だが、昨年度も年が変わるまでは似たような状況だった。前期の王将戦第1局で豊島将之に完敗した時は、久保失冠の声の方が高かったように思う。ところが蓋を開けてみれば4勝2敗で防衛を果たした。現在のタイトル保持者でただ一人の40代棋士であり、唯一無二ともいうべき振り飛車党ということもあり、ファンの声援を受けて防衛戦に臨む。
棋王戦の挑戦者である広瀬については改めて言うまでもないだろう。羽生から竜王位を奪った現在の状態が悪いはずもない。自身初の二冠を虎視眈々と狙っているはずだ。
女流棋界に目を転じると、女流名人戦五番勝負が間もなく開幕する。里見香奈に挑むのは伊藤沙恵。前期も挑戦したが及ばず、今期こそ悲願の初タイトルを目指す。
里見は女流王位こそ失冠したものの、そのあとは一度も女流棋士に敗れていない。女流王座、倉敷藤花を連続でストレート防衛した里見がまたも防衛を果たせば、しばらく里見の一強状態が続くと言えるだろうし、伊藤が奪取に成功すれば、昨年の渡部愛に続いてのニューヒロイン誕生となる。
NHK杯では羽生世代の奮闘が目立つ
タイトル戦以外でも朝日杯将棋オープン、NHK杯といったトーナメント棋戦が佳境を迎えている。朝日杯は本戦トーナメントの組み合わせが決まり、前回優勝の藤井は初戦でA級棋士である稲葉陽と対戦する。NHK杯では「早指し棋戦は若手有利」と言われる定説を覆すかのように、ベテラン勢の奮闘が目立っている。現在、ベスト8のうち4名が確定したが、その全員が羽生世代(47~48歳)なのだ(羽生に加えて、森内俊之、丸山忠久、郷田真隆)。タイトル戦では若手に後塵を拝したが、まだまだトップを譲るつもりはないだろう。
そして、「羽生善治の復権がなるか?」という点については、まず4月から始まる名人戦七番勝負の挑戦権を得られるかどうかが一つの試金石になる。タイトル戦に出続けることで、その環境を体に慣れさせる意味合いは想像以上に大きいからだ。名人への挑戦権を決めるA級順位戦はここまで5勝1敗で、6勝0敗の豊島に次ぐ位置につけている。年明けには豊島との直接対決も控えており、両者にとって大きな一番だ。
本格的な戦国時代に突入した、新時代の将棋界はまだまだ目が離せない。