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連載テレビ健康診断

今年も野木亜紀子のドラマに期待!――亀和田武「テレビ健康診断」

『獣になれない私たち』(日本テレビ系)

2019/01/13
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 昨年はテレビドラマを観ていて、楽しい気分に浸る時間が多かった。あくまで私の場合はですけどね。

 なぜか。ひとえに脚本家、野木亜紀子の産みだしたドラマあってこそだ。まず年明けてすぐに放映された法医学サスペンス『アンナチュラル』の、スピード感とクールなドラマ展開に酔った。

 不自然死を調査、解明する小さな研究所が舞台だから、『科捜研の女』をよりダークに、サイコ感覚あふれるテイストで描いたドラマといえばいいだろうか。

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 主演の法医解剖医が石原さとみで、臨床検査技師は市川実日子。この二人の会話が心地よくってね。テンポがあって、笑いも随所に。休む間もなく執刀せねばならない“御遺体”を前に、科捜研はいつも順番待ちと石原が口にすると、市川が即座に「沢口靖子は忙しいの」と応じる。

『アンナチュラル』主演の石原さとみ ©文藝春秋

 謎と恐怖が加速するなか、石原と市川の女性二人を軸に、センスのよいギャグと会話も途切れることなく繰りだされる芸に思わず唸った。

 石原さとみがときおり見せる昏(くら)い絶望感を堪えた表情も強く印象に残る。彼女は不可解な一家心中のただ一人の生き残りだ。人気と露出のわりに、じつは適役に恵まれない石原に運が巡ってきた。

 そして一年を締めくくる秋ドラマで、野木は新垣結衣に『獣になれない私たち』という、従来の恋愛ドラマとはひと味もふた味も異なる作品を提供してくれた。

 視聴率が大コケだのという芸能マスコミはセンス悪すぎる。いつまで数字に振り回されているんだか。恋にも仕事にも疲れたガッキーを見て、不満たらたらの視聴者も成長がないよ。『逃げ恥』を追い求める気持ちも判るが、彼女の新たな表情と演技に出会えた幸福に感謝しなくては。

『逃げ恥』とは違う魅力的な演技を見せる新垣結衣 ©文藝春秋

 自己模倣を断固として拒否する野木亜紀子の脚本家魂を私は断固として支持する。数字だけ考えれば、『逃げ恥』のパート2を書けば済む話だが、野木は一作ごとに異なる境地に挑戦する。

 略称『けもなれ』も雰囲気ある会話と、ていねいなドラマ作りが際立った。一話か二話で恋愛モードに突入し、即ベッドに。そんなさもしい視聴者の欲求を巧みにかわした野木の企みを評価したい。さらにいえば、このドラマの出現で、恋愛ドラマ総体の質がレベルを上げた。優秀な脚本家の奮起が楽しみだ。二〇一九年に、野木がどんな新しい感覚のドラマを見せるのか、ワクワクする。

『獣になれない私たち』
日本テレビ系
https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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