秋ドラマ最大の注目作は、新垣結衣が主演の『獣になれない私たち』だった。
恋愛ドラマに新風を吹きこんだ『逃げ恥』の大ヒットで国民的ヒロインとなった新垣が、再び脚本も同じ野木亜紀子と組む二年ぶりの新作を誰もが待ち焦がれていた。
ところが。意外なほど視聴率が伸びず、ネットには誹謗と反発が溢れている。
初回を見て、私は“いいドラマ”だなと思った。視聴者が期待する『逃げ恥』の森山みくりの再現をあえて封印、三十歳の働く女性が抱える仕事と恋愛の悩みを、一歩踏みこんで描いた野木の脚本に“攻めの姿勢”を感じた。
当然、ガッキーが無垢な笑顔を浮かべるシーンは減る。営業アシスタントとして働くEC企業では、なまじ仕事が出来るため、上司や同僚は新垣演じる深海晶(しんかいあきら)に、ちゃっかり仕事を押しつける。
働き過ぎで体はボロボロ。私生活も四年来の恋人、花井京谷(きょうや/田中圭)のせいでストレスは溜まるばかりだ。優しいが優柔不断な京谷は、前カノの朱里(しゅり/黒木華(はる))に仕事が見つかるまで同居させてといわれ、ズルズル居候されて、晶は結婚できない。
心身ともに疲れきった晶が地下鉄のホームで放心状態になる。誰も彼女の辛そうな顔を見たくないんだな。でも仕事と恋でやつれた新垣のメランコリイな顔には、ハッとさせる魅力が漂っていた。
そんな晶がほっと出来るのが家から近いクラフトビールバーだ。どこか謎めいた会計士の根元恒星(松田龍平)とはバーで知り合う。
晶は京谷と結婚をしたいのか。「結婚よりも……恋がしたい」。見る側は、晶と恒星の新しい恋を期待する。帰りがけに恒星は事務所に寄らないかと誘う。「ここから始まる恋もある」だって。去年もベロベロに酔って、同じセリフで誘ったんですよ、と晶はきっぱり断った。
ベッドシーンはともかく、会ってすぐに新カップル誕生をと期待する視聴者は、新垣と龍平の恋愛ゲームが始まらないことに苛つく。テンポが悪い。何をモタついてるとかね。
いいの、いいの。恒星の前カノの野獣系デザイナー、呉羽(くれは/菊地凛子)の強い生き方に憧れ始めた晶の毎日が少しずつ変化していく。
視聴者の安易な期待をあえて裏切る野木亜紀子のセンスと腕力に脱帽だ。それに応え笑顔と悲嘆に暮れる表情を演じ分けるガッキーの健気さがなんともリアルで愛おしい。
▼『獣になれない私たち』
日本テレビ系 水 22:00~23:00
https://www.ntv.co.jp/kemonare/