いまだ言語は不明。まもなく未知の部族が消え去ることになる――。
約三十年前、アマゾンの奥地から突如あらわれた二人の素っ裸の男。彼らの話す言葉は、他の先住民たちのどの言葉とも似ておらず、誰も理解できない。二人はブラジル政府から「アウラ」と「アウレ」と名付けられた。やがて、アウレが病死してしまう。
NHKスペシャル『アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり』は、そんな未知の部族の最後の生き残りを追ったドキュメントだ。制作したのは『ヤノマミ』や『大アマゾン』シリーズで知られる国分拓。
「イゾラド」とは、文明社会と接触していない先住民のことを指し、多くの部族は政府に保護され文明の利器を知り、文明化していく。けれど、アウラとアウレは、それには一切興味を示さなかったという。言語学者のノルバウ・オリベイラは長い時間をかけ、彼らの言葉をなんとか理解しようとした。けれど、三十年間かけて、わかった単語はわずか八百。ノルバウはある夢をよく見るという。それは、政府の調査機関から彼らの仲間が見つかったという知らせがくるというものだ。泣きそうになりながら歓喜し、早く彼らにその朗報を伝えなければと思った矢先に絶望する。なぜなら、それを伝えられる言語がないからだ。
唯一の仲間が死にたったひとりになったアウラは、時折、保健所にやってきて職員に話し出す。しかしその度に伝えられない、分かり合えないことの絶望と恐怖を味わっているのだろう。それでも相手に伝わらないことを恐らく分かりながらも、語り続けずにはいられない彼の圧倒的な孤独感は想像を絶する。その話の内容は判別している単語から想像するしかない。「もしかしたらそれは雨の夜だったのではないか、弓矢で襲われ血が飛び散ったのではないか、髭をはやしたカライー(非先住民)が大きなカヌーでやってきたのではないか、大きな音と火花、それは銃のことではないか。みんな目の前で死んでいったのではないか。ふたりきりとなり長い時間、森を歩かなければならなかったのではないか……」とナレーションもすべて疑問形だ。
この手のドキュメントなら、「文明」を“悪者”として描き溜飲を下げることもできる。けれど国分は決してそうしない。事実を淡々と描くことで、「わからない」という絶望と哀しみをくっきりと浮かび上がらせているのだ。
▼『NHKスペシャル アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり』
NHK総合 12/16
http://www6.nhk.or.jp/special/