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人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る……「困った人々」が一線を超えた時

大矢博子が『昨日がなければ明日もない』(宮部みゆき 著)を読む

2019/01/13
note

困った人々が一線を超えると……

 人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る、人のせいにして攻撃する、他者の事情や気持ちを想像できない……。読者が「こういう人いるいる。知ってる」と思ってしまうほどリアルでおなじみの困った人々。それが一線を超えると、人を傷つけて喜ぶ悪意になり、人を蝕む毒になる。おなじみだからこそ杉村三郎の眼を通して描かれる家族の問題は、そのまま社会の姿となり、読者の物語となるのだ。

 宮部みゆきはそんな毒や悪意を解消する方法ではなく、それらに対処しきれずに傷つく側の姿を描いた。毒は、悪意は、存在する。なくせない。そんな世の中でも正しくありたいと願う側の姿を描いた。救えずとも寄り添う探偵を描いた。

 これは本シリーズすべてに通じるテーマである。

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 毒や悪意と向き合うのはきつい。毒に毒されず、悪意に倒されずにいるにはどうすればいいのか。心優しき探偵が一緒に考えてくれる。そんな物語である。

みやべみゆき/1960年、東京都生まれ。87年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。99年『理由』で直木賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。

おおやひろこ/書評家。1964年、大分県生まれ。著書に『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』などがある。

昨日がなければ明日もない

宮部 みゆき

文藝春秋

2018年11月30日 発売

人の話を聞かない、嘘をつく、謝らない、見栄を張る……「困った人々」が一線を超えた時<br />

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