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台湾で、60代、70代になってから自殺する人が多い理由

著者は語る 『自転車泥棒』(呉明益 著)

年長の世代には、時が経っても癒えない傷がある

「私はこの作品を書くために多くの人にインタビューをしました。そして年長の世代には、時が経っても癒えない傷があることに気付きました。台湾では、戦争を経験した世代で、60代、70代になってから自殺する人が多いのです」

ごめいえき/1971年、台北生まれ。小説家、エッセイスト。2015年初の邦訳小説『歩道橋の魔術師』が話題に。2018年国際ブッカー賞候補となった本作は邦訳2作目。刊行直後に訳者・天野健太郎氏が急逝し、氏の翻訳の遺作となった。

 主人公と同世代のカメラマン、アッバスの父親・バスアは先住民の村に生まれたが、日本軍の「銀輪部隊」に徴用され、マレー半島のジャングルを進軍した。戦後タクシーの運転手になるが、自分の車の中でガス自殺する。主人公の父親の自転車を最初に預かった「ムー隊長」は大陸・四川の孤児で、中国軍インド遠征軍に入り、ビルマで日本の第十八師団と戦った。老いてから烏来(ウーライ)山に入り、誰にも看取られず死んだ。

「私達が学校で学んだのは中国の歴史で、台湾独自の歴史というものを教えられませんでした。親子間の断絶を修復するために、歴史を勉強しなければならない。そうして、自分達の物語を書きたいと思ったのです」

 父の足跡を追ってマレー半島のジャングルに入った男の目に映る植生や、金色に輝くトラの描写などは、観てきたように鮮やかだ。

「マレーに行ったのは脱稿した後です(笑)。ただ私は自然が大好きで、台湾国内でよく山歩きをします。台湾は一つの島の中に変化に富む気候区域があります。寒帯から熱帯まであるので、台湾の自然を知ると、他の地域の自然を想像することが出来るのです」

自転車泥棒

呉明益,天野健太郎(翻訳)

文藝春秋

2018年11月7日 発売

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