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平成の大ベストセラー『国民の歴史』の西尾幹二が語る「保守と愛国物語への違和感」

“最後の思想家”西尾幹二83歳インタビュー #1

2019/01/26
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今の小さい子どもに軍歌を歌わせるなんて、気持ちの悪い

――今でもお聴きになったりするんですか?

西尾 聴きたいと思うけれども、テレビを観ていても歌が聴こえてきませんね。馬鹿の一つ覚えみたいに由紀さおりの「故郷」ばかりでしょう。軍歌が聴けるのはもはやカラオケだけですね。

――軍歌はお好きですか。

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西尾 ええ。さっきの「勝利の日まで」もそうですが、日本の軍歌には哀調がある。勇ましくないんですよ。フランスの革命歌のような勇ましさがないんです。例の「海ゆかば」なんかは死へ向かう祈りの歌、葬送曲ですよ。歴史の底から響いてくるような音ですね。なぜ、こうした悲しくも美しい日本の歌をテレビは流さないんだろう。何に遠慮しているんだろう。私は疑問に思っていますよ。「故郷」が悪いと言うつもりはないけれど、由紀さおりばかりに任せないで、もっと美しい日本の歌を人々に伝えるべきですよ。

 

――軍歌といえば、最近では森友学園が話題になりました。

西尾 「おもちゃのチャチャチャ」や「犬のおまわりさん」が普通の今の小さい子どもに軍歌を歌わせるなんて、気持ちの悪い。

うわべのデザインだけの「保守」なんて

――西尾さんは子どもの頃に軍歌を愛唱していたということですが、森友学園のように上から強制して教えるようなことは適切ではないと。

西尾 そんなのは当たり前ですよ。今の子には今の歌がある。ただ私の世代の老人のためにテレビは軍歌を歴史的なはやり歌、歌謡曲の一種として自由に流して欲しい。人間の自然の感情に沿うことです。

 

――「大東亜戦争」という言葉を使ってみたり、歴史的仮名遣いを使ってみたりさえすれば保守である、という「愛国コスプレ」的な風潮がある現在。西尾さんは「意匠」や「衣装」という言葉でこの状況を批判していますが……。

西尾 「保守」であることがなぜにわかに「価値」となったか、それがすでに疑問です。次いで外側のデザインのみで保守と認定されるような今おっしゃった風潮はさらに問題です。当然のことながら、思想というものは中身を伴わなければならない。うわべのデザインだけではだめです。そんなことさえ軽んじられている今の言論状況からは、私はとにかく離れていたいという気持ちがどんどん強くなっていますね。

*1 「勝利の日まで」作詞・サトウハチロー、作曲・古賀政男

#2に続く)

 

写真=佐藤亘/文藝春秋

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