もはや論壇はなくなってしまった――。29歳のデビュー以来、半世紀以上にわたって言論活動を続ける孤高の言論人・西尾幹二さん。ロングインタビューの3回目は、右と左に分断されてしまった論壇への思い、言い遺しておきたいこと。聞き手は近現代史研究者の辻田真佐憲さんです。(全3回の3回目/#1#2より続く)

西尾幹二さん、83歳

「安倍さん大好き人間」の悪いところ

――西尾さんは『保守の真贋』(2017年)で日本会議や国民文化研究会、日本政策研究センターといった安倍首相を運動的・思想的に支える組織を「保守系のカルト教団」と強い言葉で批判されています。また安倍首相自身に関しても「拉致に政権維持の役割の一端を担わせ、しかし実際にはやらないし、やる気もない」と厳しく批判しています。

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西尾 安倍さんについては、私にだけではなく多くの人の目に、その正体が現れたという思いが年々強くなっていますね。人たらしって言うのかな、威厳はないけれども敵は作らない絶妙さを持っている一方、旗だけ振って何もやらない無責任さがあります。憲法改正がいかに必要であるか、炉辺談話的に国民に腹を割って説明をしたことが一度でもありますか。中国の脅威について、世界地図を広げながら国民に説明したことはありますか。憲法改正についても安全保障についても、やるやるとぶち上げておきながら、はっきりしたことは示さないまま時間切れを迎える。

 

 私はかつて安倍さんに“言葉を持つ政治家として”大きな期待を持っていたんですが、今となってはあと10年経たないうちに歴史が「最悪の内閣」だったと証明するだろうと思っています。

――それでも西尾さんの言葉で言うところの「安倍さん大好き人間」がいっぱいいる。

西尾 ええ、バカみたいにたくさん。何があの「大好き人間」の悪いところかというと、彼らの目的は政治ではなく安倍さんを頭目として首相の位置に置き続けること自体が、自己目的化していることです。もっぱらその目的のために彼らが言論を戦わせているところ。最近の保守系の雑誌をめくればすぐにわかりますよね。『月刊Hanada』にしろ『WiLL』にしろ『Voice』にしろ。

 

――『正論』はいかがですか。

西尾 『正論』は辛うじて私の安倍批判を載せますから。もっと安倍批判を保守の立場から堂々と論じることのできる人が、僕以外にもたくさんいるはずなのに、メディア側が抑えている。